そして誰もいなくなった ハヤカワ文庫
訳:青木久惠
原題:And Then There Were None
作者:アガサ・クリスティ
ストーリー
孤島に集められた10人の男女。
いまだ主催者が姿を見せぬなか始まった晩餐会で、突如として読み上げられる、彼らしか知らないはずの過去の罪。
巨大な密室と化した島。
疑心暗鬼に陥る客たち。
そして童謡の数え歌になぞらえて、ひとり、また一人と殺されていく・・・
姿なき主、U・N・オーエンとは一体何者なのか?
登場人物~招かれた10人
ウォーグレイヴ
元判事。
コンスタンス・カルミントンという古い友人からの手紙で呼び出される。
陪審員に強い影響力を持つことで有名で、彼が判決を自由に出来たといっても過言ではない。一部では死刑好きな判事とも言われていた。
カエル顔に猫背。
カメのような首と称されるずんぐりむっくりとした体型で、いつも眠っているような顔をしているが裁判の時には鋭い視線を見せる。どんな状況でも冷静で、序盤は彼が主にリーダーとなってみなをまとめる。
1930年、老女殺害の罪で起訴されたエドワード・シートンに死刑判決を言い渡した。シートンは快活な好青年で陪審員からの心象も良く、弁護人の腕もあって無罪は確定かと思われていた。そのためウォーグレイヴが私怨で殺したのではないかと噂されていたが・・・。
ヴェラ・クレイソーン
女子校の体育教師。
オーエンの妻から秘書として雇われた。立ち位置としてはヒロインに近い。冷静さがとりえの気立てのいい女性で、連続殺人が数え歌になぞらえているものだと真っ先に気付いた人物。船乗りのフレッド曰く「普通の美人」。
以前家庭教師をしていたシリルという男の子が、海で溺死している。体が弱かったシリルが彼女の目を盗んで沖合いに出てしまったことが原因かと思われていたが、実はヴェラがシリルの叔父にあたる青年・ヒューゴーと恋仲となり、「甥であるシリルが死ねば大金を相続できた」という話を聞いて、海で泳ぎたいとねだるシリルをわざと遠泳に誘い死なせていた。自分も助けにいくフリをするなど巧妙に工作していたが、その後ヒューゴーは姿を消し、破局。罪悪感と、恋人に捨てられたショックからいまだ立ち直れずにいる。
フィリップ・ロンバート
女好きな元陸軍大尉。
モリスというごろつきから金で雇われて島にやってきた。ヤバい仕事を好む向こう見ずな性格で、謎が多い状況をノリノリで楽しんでいた。ヴェラとフラグを建てたのか、共に行動する場面が多い。一人だけ銃を所持している。
アフリカの奥地で道に迷い、自分の命を守るためといって食料を持ち逃げした。その際同行していた東アフリカの部族民21名を置き去りにし見殺しにしている。自分の利益の為なら平然と人を殺す、一番の危険人物だが・・・。
エミリー・ブレンド
65歳。
すぐ「今時の若者は・・・」っていっちゃうタイプの気難しいおばあちゃん。2~3年ほど前に訪れたリゾート地で意気投合した女性・オリヴァーから避暑に誘われ島へきた。(ただし手紙の名前はミミズがのたくったような字だったため、頭文字の「O」しか読めなかった。名前は「ユーナ・ナンシー」・・・つまりU・N・オーエンである)
軍人一家の生まれで幼少時から父親に厳しく教育されていたため、自分にも他人も厳格。どんな状況でも表面上は冷静を装えるが、やや潔癖すぎるきらいもある。敬虔なクリスチャンで、一連の殺人を悪魔に取り憑かれた人間の仕業だと思っていた。
晩餐での罪の告発後も一人だけ頑なに黙っていたが、のちにヴェラに、昔雇っていた使用人の少女・ビアトリス・テイラーが身ごもった際に家を追い出した過去を告げる。その後彼女は川に身を投げて自殺してしまったらしい。自分が悪いとは全く思っていないと口では言っていたが、のちに日記に人を殺している悪魔として無意識にビアトリスの名前を書いており、内心では恐怖に怯えていた事が伺える。
マッカーサー将軍
元将軍。
元軍人仲間と何らかの確執があり、その気晴らしのため「あなたの古い友人も来ている」というオーエンの誘いに乗った。
妻の愛人をわざと死地に追いやった罪で告発される。
しかしこれは事実である。現役時代、アーサー・リッチモンドという部下を妻のレズリー共々可愛がっていたが、レズリーはアーサーと密会を重ねており、ある日、夫宛の封筒にアーサーの手紙を入れて戦地へと送るというポカをやってしまい、浮気が発覚。嫉妬心からアーサーをわざと危険地域に配属させ彼を死なせるも、どこか抜け殻の様になったレズリーもまた肺炎にかかり、数年後あとを追う様に亡くなった。(だが回想シーンでも妻を悪く言う描写はなく、彼女を心底愛していた様子が伺える。)
妻を失った悲しみと孤独からか、やがて近所の住民がみな自分の悪口を言っていると思い込み、一人ひきこもるようになる。軍人仲間とも会わなくなり、孤独に苛まれる日々を送っていた。
死のやすらぎを渇望していたためか、事件発生後は一番最初に精神の均衡が崩れた人物である。
アームストロング医師
オーエンから妻が神経の病気になったので診断して欲しい、と連絡を受けてやってきた医者。医者としての評判は上々だが、実際は腕よりも口の方が上手い。性格はやや小心者。
過去、酔った状態で手術してしまい、老婦人のルイーザ・メリア・クリースを医療ミスで死なせた過去を持つ。
アンソニー・マーストン
碧眼&高身長のイケメン。
6フィート(1フィート=30.48センチ)なので大体182センチぐらい。日焼けした肌にカーリーヘア。街ですれちがえば女の子がみな振り返るレベルである。バークリー(あだ名はアナグマ)という友人から電報を受けてやってきた。
大型のスポーツカーを乗り回し爆走するスピード狂で、過去にケンブリッジ近くでジョンとルーシー・クームズという2人の子供を轢き殺している。が、単なる事故で自分のせいじゃないと言い放つなど性格はゲスい。
序盤で彼の登場シーンがやたら神々しく描かれているが、それはフラグである。
ブロア
元ロンドン警視庁の警部。瞳の色はグレー。
現在は探偵社を開いており、オーエンからはパーティー会場に潜入し、夫人の宝石を狙う客たちを監視するよう依頼されていた。そのため当初は「デイヴィス・トマス」という偽名を使い、南アフリカのナタール出身と偽っていたが、アフリカに仕事で縁があったロンバートからはウソがバレバレだった。
紙に印字された文字からタイプライターの機種まで割り出すなど刑事らしい瞬間もあるが、ミステリーでお馴染みの「ことあるごとにアイツが怪しいと決め付けて現場を混乱させる」小○郎のおっちゃんみたいな役どころである。
ランドーという男を死に追いやったと告発される。
ウォーグレイヴが裁判を担当したランドーという銀行強盗犯は、彼の証言がきっかけで有罪となり、1年後刑務所の中で死亡している。ブロアはこの事件を解決したことにより昇進した。が、実はパーセルという男と共謀し、無実だったランドーに罪を着せた。ランドーには妻子もいたらしい。
その後エピローグで登場する警察からの評判も散々で、悪党呼ばわりされている。ランドーの事件も偽証を疑われていたが、狡猾さは1枚上手だったようだ。
トマス・ロジャーズ
島で客人を出迎えた執事。
妻と共にユーリック・ノーマン・オーエンを名乗る男から一週間前に電報で雇われ、二日前に島に来たばかり。オーエン夫妻の姿をいまだ見ていない。古くからある紹介所で夫婦共に長年執事として働いていることから能力は高く、後述の妻を亡くしてもひとり黙々と食事や配膳など客人の世話をし続けていた。
世話をしていた女主人を殺した罪で告発される。
1929年、夫婦でジェニファー・ブレイディーという老婦人の執事をしていたが、病気がちで体が弱かった婦人が嵐の夜に体調を崩し、亡くなっている。医者を呼んだが間に合わなかったと本人は言うが死亡後には遺産が入っており、その後の警察の調べで、医者から気付け薬をわざと飲ませなかった疑いがあると述べられている。
エセル
執事の奥さん。
一本調子な喋り方で、顔色は血の気がなく幽霊のようとヴェラからは称される。しかし料理の腕は絶品で、夕食はみな絶賛していた。
序盤からずっと何かを恐れていた彼女だが、罪の告発直後に失神したことから、ブレイディーの死が故意であったことは確定だろうと思われる。
U・N・オーエン
インディアン島を買いあげ、イギリス中で話題となっている謎の大富豪。10人全員にかなりの金を払い島へ招いた張本人だが、登場人物たちは誰も彼の姿を見た事がない。
客たちの古い友人や周辺の事情に詳しく、手紙には彼らの古い友人の名前を使う場合とユーリック・ノーマン・オーエンを名乗る場合があるが、夫人の偽名であるユナ・ナンシー・オーエンどちらをあわせてもU・N・オーエンとなり、
U・N・Owenを入れ替えると
Unknown(誰でもない)
となる。
一連の連続殺人事件の犯人と思われるが・・・。
物語の舞台:インディアン島
デヴォン州の海岸沖にある小島。
岩だらけの島だが、物好きな金持ちがモダンな豪邸を建てたことで有名となる。最近になって正体不明の大富豪が売り出されていた島と邸宅を買い取り、イギリスではこの富豪の正体を巡りセンセーショナルなニュースが駆け巡っている。
島への連絡手段は船しかないが、食料の備蓄や部屋の装飾品に至るまで豪華な作りとなっており、寝室にはマザーグースの詩「10人のインディアン」が掲げられている。(※当初はマザーグースの歌「Ten Little Niggers」が使用されていたが、ニガーが黒人の蔑称で差別用語のため、のちにインディアンへと変更された。しかし2010年以降はインディアンも差別用語にあたるとされ、全て『兵隊』と訳されている。それに伴い島の名前もインディアン島から『兵隊島』と改訳されている)
テーブルにはインディアン人形がわらべ歌どおり10体並べられているが、死人がでる度にいつの間にか数が減っていき、登場人物たちの恐怖を煽ることとなる。
あらすじ
最初の死者
晩餐会で鳴り響いたレコード。
謎の『声』は、その場にいる10人が過去に犯した『殺人』の罪状を読み上げていく。激怒する面々だが、レコードはオーエンの指示により執事がかけたものだった。レコードには、「白鳥の歌」・・・白鳥が死ぬ間際に最も美しい声で歌うという言い伝えから、生前最後の演奏を意味する不吉な言葉がラベリングされていた。
明日の救助を待ってすぐに島をでることを主張する判事。だがスリルを楽しみたいというマーストンただ一人が反対する。だが目の前で酒を煽った彼は、そのまま毒で窒息死する。
小さなインディアンが10人
ご飯を食べにいったら
1人がのどを詰まらせて
残りは9人。
9人
マーストンは自分でテーブルにいって酒を注いでおり、酒そのものには毒は入っていなかった。何者かがグラスに青酸カリを入れたのだ。では一体誰が・・・?状況からみればこれ以上ないほどに不自然な自殺である。とりあえずレコードを聴いたショックで失神していた執事の妻を部屋に運び、朝を待つことに。だが朝早く、医者の部屋に執事がかけこんでくる。妻が目を覚まさないと・・・
小さなインディアンが9人
夜ふかししたら
1人が寝坊して
残りは8人
8人
昨日レコードを聴いて失神し、そのまま眠っていたエセルが、目を覚まさずに死亡する。だが昨夜は、アームストロング医師が飲ませた酒以外は何も口にしてはいない。
ブレアは罪を告発されたロジャーズによる口封じの殺人を疑うが、ただ一人、妻に先立たれた過去を持つマッカーサー将軍だけは異議を唱え、ロジャーズに対しお悔やみの言葉をかけるなど、伴侶を亡くした人間への配慮をみせていた。だが、モーターボートの救助が来なかったことで「これで終わり」と絶望し、病んでしまう。
さらに人形が死者が増えるたびに消えていくことに気付き、いよいよ島は狂気に包まれる。島のどこかにいるであろうオーエンを探すため、あまり行動的ではないウォーグレイヴ判事を除いた、ブレア・ロンバート・アームストロングの3人で島中をくまなく捜索するも、誰かが隠れていた形跡はない。館も同様だった。島には本当に、8人しか存在しないのだ。
やがて昼食の時間となるも、将軍が姿を見せない。彼を探しにでかけたアームストロングは、何者かに撲殺されたマッカーサー将軍の死体を発見する。ひとり島の先端で終わりを待っていた老将軍は、永遠のやすらぎを手に入れたのだ・・・。
小さなインディアンが8人
デヴォンを旅したら
1人がそこに住むっていって
残りは7人
7人
毒ではなく、第三者による明確な殺人行為が行われたこと。この島にはこの場にいる7人しか存在しないことで、判事は「われわれの中にオーエンがいる」と確信する。7人は互いに身の潔白を証明しようとするが、もはや互いの地位も、職種も、性別も、なんら意味はもたない。最初の2人の毒殺はやろうと思えば誰もが犯行は可能だった。疑心暗鬼に陥るなか、メンバーはそれぞれ誰が一番怪しいかを話し合う。判事は一人に見当をつけ、ヴェラは医者が、ロンバートは判事が一番怪しいという。
疑惑が交差する夜。
執事のロジャーズはもうインディアン人形が"悪さ"をすることのないよう、食器室にしっかりと鍵をかける。だが彼は早朝、斧で頭をかち割られた姿で発見された・・・。
小さなインディアンが7人
まき割りしたら
1人が自分を真っ二つに割って
残りは6人
6人
この殺人が童謡になぞらえた見立て殺人だと気付き、錯乱するヴェラ。ようやく落ち着きを取り戻すと、ロジャーズに代わりミス・ブレントと共に朝食の準備にとりかかる。その後極めて冷静にふるまい、朝食を終えた面々。しかし片付けの最中、めまいがするといって座って休んでいたブレントは、どこかでハチが飛ぶ音を聞く。そしてハチが首を刺したような感覚を覚え・・・それが最後となった。
彼女は首を注射器で刺され、死亡していた。
小さなインディアンが6人
ハチの巣にいたずらしたら
1人がハチに刺されて
残りは5人
5人
わずか2日で半数となってしまった生存者。残り5人の中に犯人がいる・・・。だがロンバートの引き出しからはピストルが消えるなど事態は一層悪化していた。館中をくまなく探すもピストルは見つからない。互いが互いを監視しあい、心の中ではあいつが犯人だと罵りあう絶望的な状況のなか、一人部屋に戻ろうとしたヴェラが天井からつりさげられた海草にビビり絶叫。医者とブレア警部、ロンバートが駆けつけるが、判事だけが現われない。4人が応接室へ向かうと、ウォーグレイヴは真っ赤なガウンをまとい、判事のカツラを被らされた姿で座っていた。
カツラの下の額には銃痕。
彼は射殺されていた。
小さなインディアンが5人
法律を志したら
1人が大法官府に入って
残りは4人
4人となった生存者
判事を失い、4人は部屋にひきこもる。
しかし、ブロア警部が部屋から出ていく足音を聞きつけ、医者だけが部屋にいないことを確認する。なぜか部屋の引き出しにピストルが戻ってきていたというロンバートと共に医者を追跡するが、彼は忽然と姿を消し、見つけることはできなかった。しかし、テーブルの上の人形の数はまた一つ減っていた。
次の日。
ヴェラとロンバートは、オーエンの正体はブロアなんじゃないかと疑いを持つ。しかしその矢先、テラスで大理石の塊に頭を砕かれたブロアの死体を発見する。どうやら何者かが、ヴェラの部屋にあったクマの置時計を彼に投げつけたらしい。
やはりアームストロングがまだ生きていて、どこからか彼らを殺そうとしているのではないか?だが次に2人が目撃したのは、満ち潮で打ち上げられ、海の岩場に挟まっているアームストロングの死体だった・・・。
小さなインディアンが4人
海に出かけたら
1人が燻製のニシンに飲まれて
残りは3人
小さなインディアンが3人
動物園を歩いたら
1人がクマに抱きしめられて
残りは2人
そして、誰も
残ったのはヴェラとロンバート。
たった2人の生存者。
この時点で、犯人は確定した。
殺人鬼は、自分の目の前にいる人物しかありえないのだ。
ヴェラはロンバートに医者の死体を引き上げさせている隙にピストルを奪い、飛びかかろうとした彼を反射的に撃つ。銃弾は見事に彼の心臓を撃ち抜いた。
小さなインディアンが2人
ひなたに座ったら
1人が焼けこげになって
残りは1人
これで彼女は1人となった。
テーブルの上で3つ並んだお人形の2つを放り投げ、残った1つを意気揚々と部屋まで持ち帰るヴェラ。だが、彼女の部屋の天井にはロープがかけられていた。恐怖に気が狂う彼女は、消えた恋人・ヒューゴーがこう告げているような気がした。先が輪になっているロープの使い道は一つしかない。
小さなインディアンが1人
あとにのこされたら
自分で首をくくって
そして、誰もいなくなった。
エピローグ
エピローグでは事件後、SOSを見て駆けつけたフレッドの通報により警察が介入。一連の殺人事件の調査内容が語られる。そこで、オーエンの手先となっていたのがロンバートを雇ったモリスという人物だったこと、罪の告発に使われたレコードから過去の事件の洗い出しが行われ、それぞれに疑惑があったことが判明する。
さらに、ヴェラが自殺に使ったイスを部屋の隅に戻した第三者がいたことも明らかとなるが、警察の捜査は難航。事件の真相は、とある漁船が拾ったボトルメッセージで明かされることになる・・・
結末(※犯人のネタバレあり)
オーエンの正体は判事のウォーグレイヴ。
ボトルメッセージは彼の生涯と、事件についての独白で締められている。
彼は幼少の頃から、悪事を許さぬ正義感と、生き物を殺す残虐性という相反する二面性を持ちながら、類稀なる犯罪への嗅覚を持って優秀な判事となる。(告発された彼の罪だが、無罪確定と思われたエドワード・シートンは死刑確定後に動かざる証拠が発見され、現在では間違いなく有罪である)
しかし往年。自分の死期が迫るなか、どうしても人を殺したいという欲求が抑えられなくなるも罪のない人間を殺すことは出来ず、関係者のつてを辿り、殺人を犯しながらも罰を受けなかった人間たちを10人選んだ。彼は誰にも解けない完全な殺人ミステリーを創り出すという夢を叶えるべく、孤島という絶好のシチュエーションで、登場人物全員が死亡し迷宮入りとなる殺人事件を完成させようと目論む。
彼は事件中、自分を信用していたアームストロング医師と組み、真犯人を誘き出す為と言って自分の死を偽造。検死をアームストロングにさせることでヴェラたちを騙しきる。その後、アームストロング、ブロアを殺害。実験と称しヴェラの自殺を見届けた後は、自身もまたピストルで自殺していた。
その他の登場人物
■フレッド・ナラコット
船乗り。
8月8日に10人を島まで送った人物。以前から島への送迎を担当しており、一つ前の豪遊していた持ち主の時と比べて客層があまりにも違いすぎることから何らかの不信を感じ取っていたのか、11日の朝、島からのSOS信号を見つけ、次の日嵐が収まってから救助へ向かってくれた。
■ヒューゴー・ハミルトン
ヴィラの元恋人。
とある船旅の途中でウォーグレイヴと出会い、それまでの経緯を話す。ヴィラに心底惚れていたようだが、彼自身金に困っていた際、ふと漏らした「シリルがいなければ」という一言を早合点したヴィラが自分のためにシリルを殺したことに気付き、彼女の元を去る。彼自身はちゃんとシリルに愛情を抱いていた。
■アイザック・モリス
ユダヤ人の男性。
麻薬の密売などにも手をだしているごろつきで、ロンバートを誘い、銃を持つよう指示した。帳簿操作に長けており、実は裏ではオーエン(ウォーグレイヴ)に雇われ、島の購入やレコードの準備など彼の手先となって一切を秘密裏に取り仕切る。しかしヴェラたちが島へいった8月8日の夜に、消化不良用の薬と偽って睡眠薬を盛られ死亡する。
10人のインディアンや、燻製のニシンについて
元はこの歌はアメリカで創られた童謡「Ten Little Injuns」。こちらでは最後のひとりは結婚していなくなっているが、翌年イギリスで「Ten Little Niggers」とマザーグース風に訳された歌詞では、最後のひとりは首を吊って死ぬなどかなり残酷なものになっている。(現在ではこの歌詞はあまり使われることはなく、単なる数え歌の一つとなっている。また、イギリス版でも最後の歌詞は「結婚した」となっていることが多く、首吊りとなった原典は不明。アガサの創作ではないかという説もある)
また、残り4人となった詩に登場し、アームストロングの見立て殺人にもなった『燻製のニシン(red herring=レッド・ヘリング)』とは、気をそらすという意味合いで使われる英語の慣用句であり、それが転じてミステリーにおける、読者を煙にまくような(無実の人間に罪を着せようとしたり、わざと匂わせることばかりいうキャラを用意して読者の注意をひかせるなど)といった手法を、燻製のニシンの虚偽と呼ぶようになった。
これはその昔イギリスの新聞社が書いた、匂いが強い燻製のニシンを使いウサギを追っていた犬の気をそらせた・・・という記事が広まったもの。だが実際は猟犬の訓練にニシンを使うということはないという。
今読むと結構強引?な古典ミステリー!
さすがに50年以上経てば、判事の「人殺したくて仕方なくなっちゃった☆」みたいな動機があまりにもサイコパスすぎるし、殺人が続いても部屋に各自ひきこもっちゃうところなど都合よすぎる面も目立つものの、現代ではこの作品はリアリティを楽しむというよりは、舞台を見ているような気持ちで、ページ上で繰り広げられる推理劇を全力で楽しむべき作品。
孤島に浮かぶ豪勢な館。謎の人物によって集められた登場人物。部屋にあるわらべ歌。殺人が起きるたびに減る人形。そして最後には誰もいなくなる・・・字面が並ぶだけでわくわくする、完璧なシチュエーション。登場人物にはそれぞれ『秘密』があり、全員に死の影がちらつく。全員の内情が語られるも、誰が犯人なのか解らない。けれど、推理できるヒントはちゃんと物語の中に隠されている・・・。
あらゆるミステリーの王道の要素が詰まっている。これこそがこの作品の一番の魅力でなのではないだろうか。
最後に
犯人がわかったあとで読むと、ウォーグレイヴの最初の独白や残り4人の状況でそれぞれの内情が描かれる際、彼だけは「落ち着いてさえいえれば・・・計算済みだ」と言っていたりと、犯人でも矛盾しない内容となってるんですよね。こういうのは二度読んでも面白い面だと思います。また、殺人ではないと否定しながらも、内心では罪に怯え追いこまれていく登場人物の心理も面白いです。こう考えると、最初に良心の呵責もないマーストンが死んだのは構成的にも納得。大人になった今読むと、マッカーサー将軍になんだか哀れみを感じてしまいますね。一人ロジャーズを庇ってたりとか・・・奥さんのことを心から信じていたんだと思います。
そにしてもなぜに人はこうも見立て殺人に浪漫を感じてしまうのか・・・。様々な派生作品が作られるのも納得の傑作ミステリーでした!
↓ドラマ版の感想はこちら!