恐怖度 ★★★★
キャスト ★★★★★
美術 ★★★★★
結論:コックの扱いが酷すぎる。
1980年 アメリカ
監督:スタンリー・キューブリック
冬の間、とある豪華ホテルの管理人として住み込みで働くことになった作家志望のジャック。しかしそのホテルは、かつて管理人だったグレーディーという男が自分の妻と娘2人を斧で惨殺し自殺するなど、陰惨な事件が起きていた。さらにジャックの幼い息子・ダニーは、そのホテルから忌まわしい何かの気配を感じ取っていた・・・
※ラストのオチのネタバレあり!
※感想だけを読みたい人は目次ですっ飛ばしてください。
目次
主要人物紹介
ジャック・トランス(演:ジャック・ニコルソン)
ダニーの父親。
元教師で現在は作家志望。生活費を稼ぐため、冬季閉鎖されるオーバールックホテルの管理人となった。
酒癖が悪いらしく、原稿を散らかしたという理由で幼いダニーの肩を脱臼させケガをさせてしまった。本人はそれを悔いて断酒しているが、アルコール中毒者で家庭内で暴力を振るっていた事が暗に描写されている。
ホテルの狂気に飲みこまれ妻子を襲うようになるが、実は当初から「ホテルに初めて来た気がしない」「どこに何があるかも知っている気がする」と口にしており、最初からホテルに呼ばれていたような描写がある。
ウェンディ(演:シェリー・デュヴァル)
ジャックの妻。喫煙者。
見るからに神経質そうな出で立ちをした華奢な女性。当初は徐々に変貌してくジャックに怯えながらも夫のことを支えていたが、237号室に入ったダニーが首にケガをした状態で現れたのを見て、「あなたがやったのね!」とヒステリックにジャックを責め立ててしまい、情緒不安定に陥っていたジャックを完全に追い詰めてしまった。その後、完全に狂人と化したジャックに襲われパニックになりながらも、子供を守るため、ホテルから逃げ出すことを決意する。
彼女のジャックに追われている最中のヒステリックな叫びや真に迫った演技は、人によってはジャック・ニコルソンの狂気の演技以上の恐怖を感じることだろう。
ダニー(演:ダニー・ロイド)
ジャックの息子。
シャイニング(輝き)という特別な力を持つ少年で、幽霊の様な存在を知覚できる。また、自分の指を折り曲げながら『トニー』と呼ぶ誰かと会話ごっこをするクセがあり、彼いわく、トニーがこれから起こる未来の出来事を夢で教えてくれるのだという。
トニー
映画と原作では正体が違う。
原作では明確に正体が明らかになるが、映画では家族は『トニー』のことを、ダニーのイマジョナリー・フレンド(空想上の友達)だと思っている。また、お腹の中に住んでいるというトニーは母親のことを「トランスの奥さん」と他人行儀に呼び、口調や声色も変わる。が、トニーがダニーの一人二役(別人格)なのか、それとも何か別のものがとり憑いているのかは、あえてぼかされている。
ハロラン(演:スキャットマン・クローザース)
ホテルの料理長を勤める黒人のおじさん。
初対面でウェンディたちしか使っていない「先生」という愛称でダニーを呼んだが、これは彼もダニーと同じく「シャイニング(輝き)」を持つ人物であることから。彼の祖母も同じ能力者だったようで、口を使わずにテレパシーで会話することが出来たらしい。
ダニーの力を見抜き「ホテルにいるのは絵本の中の絵と同じ」とアドバイスをくれる。が、「237号室には絶対に近づくな」と警告する。
原作から最も役回りが改変された人物であり、原作では主要人物の一人だが、映画ではぶっちゃけやられ役。中盤以降、ダニーからのテレパスを受け取り、遠く離れた実家からわざわざダニーたちを救いにやってくるものの、ジャックにすぐに殺されてしまった。彼が乗ってきた雪上車のおかげで2人は脱出できたとはいえ、悲惨すぎる結末である。
登場する幽霊
双子(演:リサ・バーンズ/ルイーズ・バーンズ)
映画で最も有名にして印象的な幽霊。
幾度もダニーの前に姿を現し「一緒に遊びましょう」「ずっとずっと(and ever...)」と囁いて去っていく。彼女たちの正体は、前任者・グレーディーに斧で惨殺された2人の娘。後述するグレーディーの話によれば、彼女たちは当初からこのホテルのことを嫌っており、どちらかがマッチで火をつけようとしたらしい。そのことで怒りを買って殺害されてしまったようだ。(ダニーも彼女たちの殺害現場らしきものを幻視している)
ロイド(演:ジョー・ターケル)
ダニーに暴力をふるったと誤解され、追い詰められたジャックの前に突如現れたバーテン。禁酒していた彼に酒を注ぐも、「あなたの(お金)は通用しません」「店主からの命令で」といって、なぜか代金はとらない。果たして、この酒の対価とはなんだったのだろうか。
なお、初対面なはずなのにジャックが当然のように彼の名を知っていたこと、ウェンディにはその姿は一切見えていなかったことから、ジャックの妄想中の人物と考えることもできる。ちなみに、ロイドに再び会った時ジャックが言った「わたしを噛んだ犬の毛(Hair of the dog that bit me)」とは、犬に噛みつかれた傷を治すには、その犬の毛をつければいいという迷信があり、そこから「迎え酒」という意味が込められた言葉。最初に会った時のお酒で二日酔いだから、同じのをくれ・・・みたいな意味だと思われるが、この字幕だとちょっとわかりづらい。
グレイディ(演:フィリップ・ストーン)
パーティー会場で配膳係をしていた男性。
だがその正体は、1970年に冬に、妻子を殺し猟銃で自殺したはずの管理人。(ジャックは新聞で顔を知っていたためすぐに正体を見抜いた)。ジャックに対し、「あなたはずっとここの管理人だった」と謎の言葉を残し、その後もウェンディとダニーを殺すよう促すなど、ホテル側の悪意となって登場する。
237号室の女
絶対に入るなと言われていた部屋にいた女。ジャックが様子を見に行った際にはバスタブから美女のオールヌード(!)姿であらわれ彼を誘惑したが、キスの後にはぶよぶよの腐乱死体&老婆の姿へと変わり、ひたすら爆笑していた。原作では過去、この部屋に若い男と泊まり、薬で死んだ女性の幽霊となっている。
熊の気ぐるみ男
淫乱テデ○ベアではない。
ウェンディが逃げ回るシーンで、とある部屋にいたおっさん2人組。不気味な熊の着ぐるみを着た男にタキシード姿の男性が押し倒されており、さらによく見れば熊の着ぐるみはお尻の部分だけがでているなど、明らかにわんわんおしていたことが解るシーンだが、原作にはこういったシチュエーションは存在しない。
原作に登場するのは「犬の着ぐるみを着た男」。さらに原作ではパーティーのシーンでバイセクシャルである初代支配人の男性が登場するため、モデルは恐らくその2人だと思われる。
結末は?
雪に閉ざされ、完全に孤立してしまったホテル。
ダニーの声を感じとり駆けつけたハロランも殺され、追い詰められてしまう。しかしダニーは迷路庭園に逃げ込み、途中で、来た道を自らの足跡を辿って戻り隠れることで、見事に父親を撒く。迷路から脱出したダニーは母親とともにハロランが乗ってきた雪上車で脱出し、取り残されたジャックは迷路の中で凍死してしまう。
最後に、ホテルのロビーに飾られている古い写真がアップになる。モノクロの写真には、大勢の客に囲まれて笑うジャックの姿があった。しかしその写真には、「1921年7月4日 舞踏会」と書かれていた・・・。
ラストの意味は?
解釈としては2通り。
「迷路で死亡したジャックが、幽霊ホテルの一員として永遠に捕らわれてしまった」ことを表すもの。もしくは、「かつて1921年に、ジャックとそっくりの男が本当に管理人として存在しており、ジャックはその生まれ変わりだった」というもの。
後者の説は、序盤からジャックがホテルについて知っているような描写と、グレーディーの「あなたはずっとここの管理人だった」というセリフから来るもの。この場合、最初からホテルへと誘われていた可能性があり、彼の死は運命付けられていたものだともいえる。
ただ、ホテルの呪いであっても前世からの縁であっても、無残な死であることに変わりはないかもしれないが。
妄想か、呪いか。
All work and no play
makes jack a dull boy
"仕事ばかりで遊ばない"
"ジャックは今に気が狂う"
序盤では、元々このホテルが建っていた場所はインディアンの墓地だったりと古くから曰く付きの土地であったことを匂わせており、「呪いのホテル」が父親を狂気に駆り立てていくホラーな物語にもとれる。
が、作家としての仕事が上手くいかず、アルコール中毒により暴力をふるってしまったことで家庭内にも不和があり、雪に閉ざされ完全なクローズドサークルになりつつあるホテルで、以前管理人だった男が殺人を犯したという体験談に自らを重ね、妄想により狂人と化した・・・というお話にすることもできる。元々幽霊がいる割りにホテル自体は盛況(大統領や映画スターも泊まりにくる)であることや、冬季休業という状態でなければ異常が起きないことから、全ては彼の頭で起きている出来事という解釈も可能だ。(ただしその場合、妻・ウェンディが見た数々の幽霊は何だったのか、ということに説明がつかなくなるが)
これが単なるキャビン・フィーバー(長期に渡る閉所での生活で起こる恐怖症)なのか、それとも悪霊たちによる呪いなのかは・・・各々が想像して紡ぐ物語なのだろう。
不気味なホテルのデザインが凄い
主人公一家が過ごすオールバックホテル。美しい景観に、3人で住むには広すぎる豪華なホテルだが、今作では普通の人間のような姿で登場することが多い幽霊たちに代わり、このホテルそのものが秀逸な「物言わぬおどろかし役」となっている。
序盤に登場し、ジャックが原稿を書いている真後ろに鎮座する、真っ赤な血が大量に流れ込んでくるエレベーター。クラシカルなパーティー会場と雰囲気がガラっと変わる、ジャックが前任者の管理人と語り合う場として使われた、異界のような真っ赤なトイレ。237号室の緑色のバスタブ・・・。
幾何学模様が妙な不安を駆り立てる廊下など、ただのホテルなはずなのにどこかおかしさを感じさせる色調やデザインは、おぞましくも心惹かれるものになっている。
鏡越しの演出について
序盤から、父親のジャックは鏡越しに映る場面が非常に多い(まだ狂気に陥る前にウェンディと会話するシーンや、消防車を取りに来たダニーを相手にする時など)。「REDRUM」が「MURDER(殺人者)」になるという、彼の内面がどんどん狂気に陥っていくことへの暗示だと思われるが、唯一の例外が、前任者のグリーディーとトイレで会話するシーンである。この場面では2人が会話している時は、たくさんある鏡に彼らの姿は映っていない。また、死んでいるはずのグリーディーが鏡に映っているかジャックが確認するところも、鏡にカメラは向いていない。この2人の会話が完全に現実から切り離されているのか、それとも、ジャックの内面の願望・・・わずらわしい妻や息子を排除したい、という感情を表す鏡こそクリーディーだった、そういう暗示なのだろうか。
119分版と143分版の違い
現在、ソフト版では「119分版」と呼ばれる短縮バージョンのものが発売となっている。これは143分版と呼ばれるものから、序盤の一家がホテルへくるまでのやりとりなどが省略されているものなので注意が必要。2017年1月23日現在、シャイニングはhuluにて字幕版が配信されているが、こちらは143分版となっているので、カットされているシーンが見たい方はDVDレンタルより配信での視聴をおすすめする。(※だがこの配信版にも、逃げ延びたダニーたちの元へ支配人が見舞いにやってくる・・・という幻のラストは入っていないので注意)
最後に!
レンタルでずっと観ていたので今回配信で143分版をはじめて観ましたが、ドナー隊の話をしながら峠を超えるところとかいくつか観た事がないシーンがあって、すごく良かったですね!サプライズの吹き替え版に続き、huluに入ってて良かったと思う瞬間でした。
最初観た時は、ジャック・ニコルソンのあの片側だけ禿げ上がった(?)左右非対称な感じとか、徐々に目つきが変わり、ただ見ているだけなのに狂気じみていくところが凄い怖かったんですが、今みると奥さんも結構怖いという・・・。痩せこけているような頬に、目だけがぎょろっとしているところとか、パッケージのシーンのヒステリックぶりとか・・・ホテルの怖さも勿論ですが、今日の評価は役者陣の演技力の賜物であることに、改めて気付きました。こういうホラーが日本でも増えてくれたら嬉しいなぁ。
↓キング原作のホラー映画!