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【映画】舟を編む ネタバレ感想~辞書とは言の葉の海を渡る舟。

舟を編む 通常版 [DVD]
『右』という言葉を説明できるかい?

キャスト ★★★★★
ストーリー ★★★★
結論:トラさんは恋のキューピッド。

2013年 日本
原作:三浦しをん
監督:石井裕也

1995年。
辞書編集部を定年退職することとなった荒木は、自身の代わりとなる編集者を探していた。だが、金にならない辞書を作ろうとする人間はなかなか見つからない。そんな荒木が目をつけたのは、社内でも変わり者と有名な、馬締光也という男だった・・・。

※原作は未読の状態で視聴。
感想だけを読みたい方は「目次」から。

目次

登場人物

※映画版の人物設定です。

■馬締光也(演:松田龍平)
苗字と同じく「マジメ」そのものな性格の男。大学では言語学を専攻していた。
営業部では対人スキルの低さゆえに成績は最低。しかし、荒木から"右"という言葉の説明を求められた際、「西を向いた時に北になる方向」と答えたことで辞書編集部に異動となった。
「今を生きる辞書を作りたい」という松本の言葉に感銘を受け、以後は辞書作りに情熱を注ぎ、その熱意は周囲にも影響を及ぼしていくようになる。

12年後の2008年には、辞書編集部の主任となっている。
「これからも、お世話になります」

■タケおばあさん(演:渡辺美佐子)
管理人のおばあちゃん。
10年以上下宿している馬締のことを「みっちゃん」と呼び、一緒に夕食を食べたりともはや家族の様な間柄となっている。
新しい仕事で人に気持ちを伝えることが苦手なこと、他人の気持ちがわからないことに悩む馬締に、温かい励ましの言葉を送ってくれた人物。
「わかんないから話しをするんだろ?」

「若いうちに一生の仕事を見つけて。それだけでみっちゃん幸せなんだから」

■トラさん
1995年パートに登場する茶トラのにゃんこ。
画面の端々に登場してはその愛らしさで見るものの心を奪っていく。馬締の恋のキューピッドでもある。

■林香具矢(演:宮﨑あおい)
名前の読みは「かぐや」。
タケさんの孫娘で、べっぴんさんな27歳。
元は京都で板前の仕事をしていたが、タケさんが高齢のため同居することとなった。
うなじが色っぽい。
12年後は馬締と結婚している。
「やっぱりみっちゃんは面白いね」

■西岡正志(演:オダギリジョー)
馬締とは正反対の性格の、チャラい編集部員。
当初は辞書編集の地味な仕事に乗り気ではなく、生真面目な馬締とも合わないと思っていた。しかし馬締に感化されたのか、営業部にいる彼女から『大渡海』が発行中止になるという情報を聞いた時には、いち早く見出しの語釈を社外に発注させ、わざと情報を外にもらすことで既成事実を作るなど機転をきかせてピンチを救う。
その代償として宣伝広告部に移動となった際、馬締から「頭でっかちなままじゃ生きた辞書は作れない」「そう僕に教えてくれたのは西岡さんです」と言われた時には涙を流し、それからも、部署は違えど長きに渡り馬締の良き仕事仲間となる。

12年後は彼女と結婚。立派な親バカとなっていた。
「酔ってプロポーズとかまじダサい」

■佐々木 薫(演:伊佐山ひろ子)
辞書編集部にて事務を担当する女性。
馬締の恋の話を聞いて、香具矢の職場にすぐに予約を入れたり、馬締が大真面目に書いた毛筆ラブレターを凄く丁寧に折りたたんでくれたりと、地味だがとても良い仕事をしてくれる。

■荒木(演:小林薫)
長く辞書作り携わってきた、松本からの信頼が最も厚い編集者。妻の介護のため定年退職する自分に代わる人材として、馬締を営業部からひきぬいた。辞める直前、自分が今まで使っていた袖カバーを馬締に託し、編集部を去る。
だが12年後、妻を看取ったのち、再び『大渡海』の仕事を手伝ってくれる。

■村越局長(演:鶴見辰吾)
辞書を金がかかるだけの時代遅れの本だと思っており、後任を探していた荒木にも「(辞書を作りたがるような)奇特な人間がいるとしたら、どうせ仕事が出来ない人間でしょうから~」などと嫌味を言う。中盤、大渡海を発行中止を撤回する際には「今後は辞書と名のつくものは全て辞書編集部が作ること」「馬締か西岡、どちらかが編集部から抜ける」という条件をだしてきた。

しかし12年後では彼も感化されたのか、不備が見つかり泊まり込みで作業していた辞書編集部に、差し入れをもって応援しにきてくれる。

■岸辺 みどり(演:黒木華)
12年後、主任となった馬締がいる編集室にやってきた女性。
元はファッション誌の編集をしており、当初は辞書作りを馬鹿にしていたものの、自身も変わり者だったためか、やがて熱意をもって仕事に取り組むようになる。配属1年で、飲めなかったシャンパン以外のお酒もイケる口に。

ちなみに演者の黒木華さんはこの数年後、某ドラマで漫画雑誌の新人編集者になってたりする。

■松本先生(演:加藤剛)
人生を辞書に捧げてきたといっても過言ではない元教授。辞書を「言葉の海に浮かぶ舟」と例え、新しい辞書に『大渡海(だいとかい)』と名づけた。

「マジ」「ダサい」など次々に生まれる新しい言葉を積極的に取り入れたり、現在では言葉の意味が変わりつつあるものや、若者の「ら抜き言葉」なども、「これは誤用である」という注釈をつけてでも載せたいという信念のもと、つねに新しい価値観を受け入れる柔軟な思考の持ち主。
さらに、香具矢に一目ぼれをした馬締に『恋』の語釈を任せるなど粋な人物でもある。

12年後、『大渡海』完成を前に食道ガンにより死去。

あらすじ

1995年

辞書編集部に異動となった馬締は、現代語や新しい言葉を載せた、今を生きる新しい辞書『大渡海』を作ることになる。だがそれは、何万の言葉を集める「用例採集」にはじまり、既存の辞書からの言葉と新しい言葉の選定、そして収録するそれぞれの言葉の語釈を綴っていくという、10数年にも渡る地道な作業の始まりだった。

自分の気持ちを伝える事が苦手で、他人の気持ちがわからない自分に、こんな大きな仕事ができるのか、と悩む馬締だったが、タケおばあさんや荒木から励まされ、不器用ながらも、自分の気持ちを「言葉」にしていくようになる。

周囲の人間とも打ち解けはじめたある日。
時代が徐々に紙媒体からデジタルに移行しつつあることや、辞書は金を喰うばかりで生み出さないことを理由に、村越局長が『大渡海』を発売中止にしようする。西岡の機転により難を逃れるも、代わりに西岡が、宣伝広告部へと異動することになってしまった。

馬締の部屋で、西岡と彼女の麗美。3人で小さな送別会を開く。
そこでの馬締の一言をきっかけに、自身でも気付かぬうちに、辞書作りに愛着が湧いていたことを自覚した西岡は、泣きながら、酔っ払った勢いで麗美にプロポーズするのだった。

香具矢との恋

下宿先のベランダで、越してきたタケの孫娘・香具矢と出くわし、一瞬で恋に落ちてしまった馬締。板前を目指す彼女の手料理を食べながら、少しずつ距離を縮めていき、ついに告白を決意。懸命にラブレターを書くも、毛筆で書かれた戦国武将の書状が如き恋文は香具矢には読めず、叱られてしまう。はっきりと言葉でいうように言われ、「好きです」と告げると、香具矢から「・・・私も」という言葉が返ってきた。驚きを隠せない馬締。

その後。
馬締が担当した【恋】の語釈には「成就すると、天にものぼる気持ちになる」という言葉が添えられていた。

12年後~2008年~

結婚し、香具矢と夫婦となった馬締は、辞書編集部の主任として着々と仕事をこなしていた。印刷用紙一つとっても、ぬめり感(めくる時の、紙が指に吸い付くあの感じ)にもこだわるなど、妥協しない馬締の仕事ぶりに半ばひいていた新人の岸辺も、徐々に辞書作りにのめりこんでいく。
だが順調な日々とは裏腹に、『大渡海』の監修者である松本の病状は悪化していく・・・。

そして、来年3月に『大渡海』発売を控えたある日。
「血潮」という単語が抜けていた事が発覚。「穴の開いた辞書を発売するわけにはいかない」という馬締の言葉に、アルバイト含め全員が泊まりこみで、他に抜けている単語がないか1から見直しをすることに。睡眠時間を削り、連日必死なチェック作業が行われる中、あの村越局長までもが応援にかけつける。

なんとしても完成させたい。
その一心で、寝食を忘れ、仕事に没頭する馬締。

だが思いむなしく。
『大渡海』発売を前に、松本は、静かにこの世を去る。

葬式の帰り、「間に合わなかったよ・・・」と無念の言葉を漏らす馬締の背中を、香具矢は黙って支え続けていた。

完成

『大渡海』出版の記念式典に出席していた馬締は、松本の妻・千恵(演:八千草薫)から、「松本も喜んでいる」と声をかけられるも、その表情は晴れない。部屋の片隅にひっそりと設けられた松本の遺影の前で後悔を滲ませていると、荒木が松本から送られてきた手紙を見せてくれる。
そこには「以前、君のような編集者が他にいるとは思えないと言いましたが、あれは間違いでした」と、荒木と、荒木が連れてきた馬締への感謝が綴られていた。

「君たちと出会えて良かった」
「共に辞書を作れて、本当に良かった」

感謝と言う言葉以上の言葉がないか、あの世でも用例採集を続けるという、最期まで松本らしい言葉に微笑む馬締。
二人のスーツのポケットには、束となった用例採集カードがある。
明日からまた、黙々と舟を編む日々が始まるのだろう。

後日。
松本の墓前を尋ねた馬締と香具矢。二人は途中でタクシーを降り、しばし海に見入る。そこであらためて、これからもよろしくお願いしますと頭を下げる馬締に、香具矢は笑う。12年前と同じように・・・。

マジメな編集者の物語

辞書とは言の葉の海を渡る舟。
そして編集作業は、その舟を編むようなもの・・・。
誰もが知っているけれど、作り方は全く知らない『辞書』という存在に情熱を傾ける編集者たちの物語。

自分は最初の「右を説明して」という質問に、「お箸を持つ方」という残念な説明しか浮かばず、それじゃあ左利きの人はどうすんねん!というツッコミに返す言葉が見つかりませんでした。
意味も概念も理解しているし、普段から何気なく使っているけれど、確かに『言葉』でぱっと説明できない・・・!?そこから『辞書』というものの奥深さに、そして映画の面白さにずぶりと沈みこんでいった気がします。

キャスト陣の好演

営業部では散々で、自分の気持ちを言葉にするのが・・・人と向き合うのが苦手だった馬締が、大渡海の出版パーティーでは、

当初は「絶対仲良くなれない」とか言ってて誰よりも仲良くなる西岡さん、
地味だけど仕事が早い佐々木さん、
新人だけど辞書の面白さにハマってくれた岸辺さん、
泊まり込みで頑張ってくれた皆さん・・・。

一人ずつ"仲間"の顔を見つめていくというカットにあわせ、八千草薫さんの「馬締さん、ありがとう」の一言とかこんなもん泣くしかない。

本当にただひたすら辞書を作っているだけで、何か凄く特別なことが起きるわけじゃないし、松本先生の死も大仰な演出になっていたりはしない。静かに、日常に溶け込んだまま描かれていく。

それでも、
登場人物たちが辞書作りに懸命になっていく姿がただただ愛おしい。

初っ端からいかにもな悪役として登場しておいて、10年経ったら辞書作りに肩入れしまくってる村越局長すら愛おしい。

馬締が恋をした!と知った時の
職場(料亭)を聞き出す
 ↓
即効で予約
 ↓
全員で見にいく
・・・という辞書編集部のみなさんの連携っぷりとか最高に愛おしい。

まぁこれだけ愛せるキャラが多いというのは、この映画が脇役に至るまで素晴らしいキャストで構成されているからなんですが。
特に、主人公の大家のタケおあばさん役の渡辺美佐子さんと、佐々木香役の伊佐山ひろ子さん!出番は少ないながらも、存在感が光る役どころでした。

最後に!

観終わった後、じんわりと温かくなる物語。
今の時代、わからなければ検索検索ぅ!が当たり前の日々。手のひらサイズの万能辞書があるようなものです。が、それはそれ。クソ重い辞書は持ち歩くには不便ですが、やっぱり紙の辞書が家にあると、なんか安心感があるなぁ~と、小学校時代から使っている辞書をみて思ったり。(そしてこの映画を見たあとペラペラめくってぬめり感を確認した)

10月13日にはノイタミナでアニメがはじまりますが、映画では描かれていない部分や、改変されていない原作オリジナル部分が観られたりするのでしょうか?楽しみですね~!映画版は現在huluなどでも視聴可能なので、まだ未視聴の方は、アニメの前に予習してみるのもいいかもしれません。

↓ノイタミナで放送中!

↓松田龍平さん、お好きですか?