2002年 日本
監督:中田秀夫
原作:鈴木光司
浮遊する水(「仄暗い水の底から」収録)
※本編ラストのネタバレあり。未視聴の方はご注意ください※
/主要人物/
■松原淑美(演:黒木瞳 )
離婚調停中。
仕事をしながら一人娘・郁子の面倒を見るため、幼稚園の近くの物件に引っ越してきた。郁子が生まれる6年前まで大手出版社の校閲を担当していたが、小説の残酷な内容に精神的にダメージを受けてしまったことで精神科へ通院していたり、幼少期の頃両親が離婚したことがきっかけで一時的に夢遊病になっていたという過去がある。現在はそれらの症状は回復しているが、少々ヒステリックな面もある。娘への愛は人一倍強い。
■郁子
(演:菅野莉央→16歳:水川あさみ)
もうすぐ6歳になる淑美の娘。引っ越してきたマンションの屋上で赤いカバンを拾ってから、徐々に見えない友達に向かって独り言をいうようになる・・・。
■河合美津子(演:小口美澪)
2年前の7月14日に行方不明になった女の子。郁子と同じ幼稚園に通っていた。のちに、淑美たちの上の階の部屋に住んでいた事が判明する。
■浜田邦夫(演:小日向文世 )
淑美の元夫。
郁子の親権を争っている。
目的の為なら淑美を貶めるようなことも平気で言う辺り、あまりいい性格をしているとはいえない。昨今では優しいおじちゃん役が多い小日向さんには珍しい陰湿な役。
■大田(演:徳井優)
淑美たちに新居を勧めた不動産屋。
いかにも不具合が多そうなマンションの管理をじーちゃんにまかせっきりにしたりと色々といい加減。
■神谷(演:谷津勲)
マンションの管理人のじーちゃん。
「水漏れしまくってる」という苦情を「日誌につけとく」だけで済ませたダメ管理人。
■岸田(演:小木茂光)
この映画の良心。
郁子の異変や部屋の異常な水漏れ、マンションの周囲に感じる美津子の気配に追い詰められていた淑美の、最大の味方となってくれる弁護士。上記のダメダメ管理人&不動産屋コンビに一矢報いてくれるシーンは映画唯一のスッキリシーン。
だが結末を思うに、苦労したのに一切報われず、一番被害をこうむったのはある意味彼なのでは・・・。
中田監督の描く"水"の恐怖
日常に最もありふれている「水」を通じた怨念を、前作の「リング」よりも一層静かに描いている作品。音でびっくりさせたり幽霊がばーん!と登場するような派手な演出はなく、恐怖演出に使われるのは行方不明になった少女の幻影と、あとはひたすら「水」のみ!コップの中に浮かぶ髪や、蛇口から出続ける濁って汚いらしい水の描写は、生理的にイヤな人にはゾクゾクものだと思う。
個人的には水の描写だけではなく、嫌な感じに黄ばんだ壁紙、屋上の古い貯水槽・・・という、独特な空気感を持つ「コンクリートマンション」が舞台にしていたのがツボ。建物全体の空気が冷たく重く湿気っているような、普通のマンションとは少し違う、どこか異空間めいたあの雰囲気は、このホラー映画ならではの特別なものだと思う。
↑こちらのホラー短編集の中の1編「浮遊する水」が原作。ただし原作と映画版のストーリーはかなり違い、話自体も短い。
黒木瞳さんの抜群の演技力
徐々に広がっていく天井のシミ、そこから漏れる水、何もしない管理人、頼りにならない不動産屋、不安の残る保育園、なりふり構わず娘の親権を奪いに来る元夫、変わっていく娘の様子・・・などなど、精神的に参ってしまうこと不可避なこの状況で、追い詰められるも一人立ち向かっていく母親。この映画の最大の見所は、この黒木さん演じる淑美のリアリティにあるといってもいいかもしれない。
華奢な体躯に折れそうな腕、怯えがちな視線、不安げに震える声・・・序盤だけ見ると、「全ては母親の妄想パターン」もあり得ると思わせるぐらい、ヒステリックな女性。
こんなに弱弱しく、ある意味で一人娘に依存しているところもあった母親が、終盤美津子の幽霊に追い詰められた際に娘に、今までの「郁ちゃん」呼びではなく「郁子」になるところや、あなたのママじゃないと否定していた美津子に向かって、「私がママよ・・・」と抱きしめるシーン。母親の弱さと強さ、両方を感じさせる終盤のやりとりは、やはりぐっとくる。
主人公が娘を守るため、自ら進んで幽霊と永遠に共にいることを選ぶというラストに賛否両論はあれど、個人的には、単なる自己犠牲とはまた違う、子供に対する母親の愛情を描ききったベストエンドだと思う。
~こんな人にはオススメできません~
■静かなホラーがニガテな人。
精神的に追い詰められていく描写がメインで、リングのように大トリでばーん!と出てくるようなインパクトはない。(というか最後のゾンビ美津子は正直、鎖骨を揉んでいるようにしか見えない)もっとハデなのをご所望の方には向かない。
最後に
もともと生きていた頃の美津子は郁子とは逆で父親と暮らしていたわけですが、きっと父親も娘に愛情があったであろうに、死してなおあくまで「母親」を求め続けていたという設定に、全国のおとーさんはちょっと切ない気持ちになると思われます。10年後の世界でも、16歳になった郁子は母親と暮らしたがってるし。みんなそんなにかーちゃんがいいのかい・・・。でも、それが「母親」という存在なのかもしれません。
ちなみに、「仄暗い水の底から」は海外で「ダークウォーター」としてリメイクされていますが、母親を演じるのはフェノミナで主演だったあのジェニファー・コネリー!彼女の母親の芝居や全体の雰囲気の再現度などが意外に悪くない作品なので、気になった方はぜひ見比べてみてください!
↓リメイク版はこちら!
↓中田監督の傑作ホラー!