シュール度 ★★★★★★
人形美術 ★★★★★★
ウサギの怖さ トラウマレベル
結論:おいでませナイトメア。
1988年 チェコ
監督・脚本:ヤン・シュヴァンクマイエル
「大変だ!遅刻しちゃう!」
「──と兎は言いました」
アリスは兎を追いかけて、不思議の国へ迷い込みました──
/主要人物/
■アリス(演:クリスティーナ・コホウトヴァー )
金髪の幼女。
しかめっ面が多く、結構乱暴。
■兎(演:???)
剥製のウサギ。
おなかの中にはおがくずと懐中時計。
時計を確かめるたびにおがくずがボロボロとこぼれる様は狂気。
最大の見所:ヤン・シュヴァンクマイエルが描くシュールレアリスムの世界
シュールレアリスムとは?
その多くが現実を無視したかのような世界を絵画や文学で描き、まるで夢の中を覘いているような独特の非現実感は見る者に混乱、不可思議さをもたらす。
シュルレアリスム - Wikipedia
不条理で無秩序で、まるで夢を見ているような奇妙な世界観・・・とでも言うのでしょうか。チェコの映像作家・ヤン・シュヴァンクマイエルが描く世界観というのは、夢といっても悪夢に近い、グロテスクさが漂うもの。
童話の「不思議の国のアリス」を元にしていますが、私達の多くが想像するディズニーのようなファンシーで可愛らしい世界観ではなく、原作が持っているナンセンス=不条理さを抽出して煮詰めたような・・・そんな世界観なのです。
ではその世界観で時計ウサギを描くとどうなるのか?
その答えがこちら。
トラウマレベルといった意味がおわかりいただけただろうか。
こちらがこの映画の時計ウサギ。その他のキャラクターも、どこか歪でグロテスク。帽子屋が飲んだ紅茶は空っぽの体にびちゃびちゃと注ぎ込まれ、ぬいぐるみの三月兎は片目がほつれ車椅子で移動する・・・そんな人形たちがカクカクとストップモーションアニメーションで動くさまは、正に狂気の人形劇。
だからといってホラー映画では決して無く、ただただ歪なモノたちが、不条理な世界で生きているだけなのです。
散りばめられた暗喩
映画に登場する人間は少女のみ。他のキャラクター達も少女が全て声を当てているので、実質的にこの映画の世界は少女ただ一人の世界だといえるでしょう。(そしてこの少女が他のキャラの声を当てるシーンは必ず少女の口元のみのアップになります。度々挟まれるこのシーンは歯と歯の間に光る糸の様なよだれも鮮明に映していて、何だか背徳感のようなものを覚えます・・・)
DVDパッケージの裏にも「シュヴァンクマイエルのいかがわしくも悪趣味な妄想」と書いてあり、作中に登場するコンパスの針や安全ピン、ラップで封をしてあるジャムをアリスが指で突き刺すと、ジャムの中に画鋲が入っているシーンなど・・・やたら「突き刺すもの」が登場することに何らかの暗喩を感じてしまうは、自分の心が汚れきっているからだろうか。
生理的嫌悪感
ヤン・シュヴァンクマイエルは「食べる」という行為に生理的嫌悪がある、と確か以前の展覧会で見たような気がします。映画の中では登場人物・人形たちや小物に至るまで、どれも生理的嫌悪を覚えずにはいられないものが非常に多い。汚い壁、汚れた手、死を連想させる骨と動物の身体を組み合わせたキャラクター・・・。
自分の腹からおがくずをボロボロこぼしている剥製のウサギが、スープ皿にこんもりと盛ったおがくずをムシャムシャ食べている姿や、アリスがインクのような液体を飲んだりジャムを舐めたりする仕草にもぞわぞわする何かを感じてしまいます。
ですが、この生理的嫌悪がエロティズムや様々な快楽と密接している・・・それがヤン・シュヴァンクマイエルの世界観。観ているうちに癖になる、そんな中毒性を秘めた映画なんです。
2005年版のDVDは画質も古いものでしたが、HDでブルーレイ版なんて出ていたのか!これは凄い・・・!!
~こんな人にはオススメできません~
■娯楽性重視の人
大衆娯楽映画の様な娯楽性は無いのでご注意!
最後に!
CGを一切使わずに表現された手造りの不気味な世界観を味わいたい方、背徳感や嫌悪感で背筋をゾクゾクさせたい方、キャラクターの造形やデザインを楽しみたい方、秋と言えば芸術の秋!地上波で放映されることはないであろう、アートな映画を楽しんでみませんか?
↓幻想世界はお好きですか?