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【小説】残穢-ざんえ- 感想(ネタバレあり)~小野不由美自身が語る?平山夢明先生も登場する実話風怪談!

残穢 (新潮文庫)
──畳を擦る音がするんです──

残穢(ざんえ) 新潮文庫
作者:小野不由美

/主要人物/
■私
小説家。
20年ほど前、小中学生を対象にした文庫でホラー小説を書いていた。その本の「あとがき」で読者から怪談を募集したところ、今でも読者から怖い話が送られて来るのだが、2001年に届いたとある読者からの体験談・・・それが全ての発端となる。

■久保さん
「自分が住んでいる部屋で、畳を擦るような音がする」という話を送ってきてくれた読者。30代ごろの女性で、職業はライター。最初は音だけだったが、やがて着物の帯が畳を這う場面を目撃。それはまるで、ぶら下がった着物から帯が垂れているようだった・・・。

残穢とは?

日本には古来「触穢(しょくえ・そくえ)」という、不浄なものに触れることで穢れが伝染するという考え方がある。その中でも死に関する汚れは死穢(しえ)と呼ばれ、忌避されていた。死穢は死者の家=家族にも伝染すると考えられており、死穢に汚染された者が別の家にやってくるとその家や人も汚染されてしまう。本来は死者を供養し、土地を清めることで取り祓われるはずだが、何らかの原因で残余してしまったもの・・・それを残穢と作品中で呼んでいる。あくまで作品中のみの呼び名であり、正式な単語ではない。

ドキュメンタリーホラー

主人公は小説家の「私」。名前は作中で一切出てこないが、少女文庫のホラー小説(恐らく悪霊シリーズ・後のゴーストハント)を書いていたことや通っていた大学の設定から、小野不由美さん自身であると思われる。

今作ではこのように実際の人物やホラー映画・小説の作品名が登場。まるで小野さん自身が本当にあった体験談をそのまま書き起こしているようなストーリーが特徴である。(ドラマで言えば放送止のような、フェイクドキュメンタリーに近い)

読者の久保さんが住んでいた、そして別の読者からも同じ内容が届いてたという岡谷マンション。怪異が起こる部屋に以前住んでいた人間を求め、周囲の住人たちの調査をしていくうちに、過去その土地に誰が住んでいたのかを、実に7年以上もの時間をかけて遡っていく。そして明らかになる過去に起きた事件・・・。

畳を擦る音。
晴れ着姿で首を吊った女。
赤ん坊の泣き声。
悪戯電話、放火、黒い人・・・

次々に浮かび上がる、事件に関連するキーワード。

娘の結婚式の直後に縊死した母、嬰児殺し、床下を這いずり回る男、狂気に取り付かれ、家族と共に焼け死んでいく男・・・全ての穢れの発端は一体何なのか?

これらの事件を追っていく歳中で登場する実在の作家として、平山夢明さん、福澤徹三さんが本人役としてご登場。共に最終目的地・福岡の奥山怪談まで向かう。

因みに作中で福澤さんが蒐集しているという「奥山家の怪談」だが、これは八甲田山のように実際の事件や怪談・・・というわけではないように思える。ネット上や文献で見た事が無いからだ。だが一体どこまでがフィクションでどこまでがノンフィクションなのか・・・それが解らないのが今作の一番の魅力なのかもしれない。

そして「私」が蒐集した怪異は、鬼談百景へと続いていく・・・。

最後に!

ホラーや怪談として怖い!というよりも、本当に作者自らが体験したことを語っているような、フェイクドキュメンタリーな展開が一番の見所だと思われる作品です。ラストはすっきりしないまま、本当に関連があったのか、伝染していった穢れはどうなるのか・・・何も解らないまま終わります。このすっきりしなさがB級ホラー好きとしてはちょっと物足りないのですが、過去を遡っていく様子は探偵小説のようでもあり、徐々に生活を侵食していくリアルな描写は、ハッキリと登場しちゃう幽霊よりも恐怖を増幅させてくれます。

ミステリーとしてもホラーとしても楽しめる今作。竹内結子さん主演で現在映画化してますが、残念ながら平山さんや福澤さんはは「ご本人」ではなく別の人間という設定になっているので、フェイクドキュメンタリーとしての良さは無くなってしまったように思えますが、なんちゃってホラーなアイドル映画が量産されている昨今、久々にJホラーらしい作品となるのでしょうか?

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