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ラプンツェル(原作)~グリム童話初版のあらすじ。性的描写があったり元ネタはパセリだったり不思議がいっぱい!

ラプンツェル (いもとようこ世界の名作絵本)

塔から金色の長い髪を垂らす、世にも美しいお姫様・・・。その印象的な光景からか、世界的に有名なグリム童話『ラプンツェル』。ですが初版はちょっとお子様には聞かせられないストーリーとなっていたり、さらに元ネタとなったお話ではお姫様の名前がパセリだったり・・・!?今日はそんな不思議な童話『ラプンツェル』にまつわるお話です。

現在のストーリー

現在の「ラプンツェル」の大体のあらすじは以下の通り。

1.
妊娠中の母親が、魔女の庭に生えているラプンツェル(野菜)をどうしても食べたくなり、ついには他のものを食べずに痩せ細ってしまう。心配した夫は妻のためにこっそり庭に忍び込みラプンツェルを盗み出すも魔女に見つかり、「食べてもいいけど赤ん坊はもらう」と言われるが、ビビって了承してしまう。

2.
生まれてすぐに魔女がつれていった赤ん坊はその後『ラプンツェル』と名づけられ、美しく成長する。だが12歳になってからは入口もない高い塔の上で暮らすことになる。

3.
ある日。森の奥でラプンツェルの歌を聞いた王子様が、魔女がラプンツェルに呼びかけて長い髪を垂らしてもらい、それを伝ってのぼっているところを見る。王子は魔女の真似をしてラプンツェルに呼びかけ、彼女の元までのぼってしまう。そこで王子とラプンツェルは恋仲になる。

4.
勝手に男を連れ込んでいたことがバレて魔女に激怒され、ラプンツェルは長い髪を切られて荒地へ追放される。そしていつもの様にやってきた王子は魔女から事の顛末を聞いて絶望。自分を責めた挙句、塔から飛び降りて失明してしまう。何年も森をさまよっていた王子様はやがて荒地へたどりつき、男の子と女の子の双子の母親となっているラプンツェルの歌を聞いて彼女を見つける。ラプンツェルの涙が王子の目に零れると、再び王子に光が戻る。その後2人は王子の国で家族みんなで幸せに暮らす。

初版のストーリーは?

以上がグリム童話の第7版のストーリー。初版では大体の流れは一緒だが、違いは以下の通り

・ラプンツェルを引き取るのは魔女ではなく妖精となっている。
・男を連れ込んでいるのがバレたのは、ラプンツェルが「洋服がきつくなっちゃった。どうしてかしら?」と妖精に聞いたから。

まず、初版ではラプンツェルをさらう魔女は妖精と訳されている。(ドイツ語の初版原文ではラプンツェルをつれていく女は「Fee(妖精)」)

日本では妖精というと「ティンカーベルのような小さくて羽がある少女」というイメージだが、ヨーロッパの妖精は『人間の形をした精霊や妖』であり、実際は老婆や美女など様々な姿をしていたようだ。また性質も善良なものから邪悪なものまで多様なので、魔女とほぼ変わらない意味で恐れられる存在として扱われる場合も多い。

ただし、第7版では「Zauberin(魔女)」と変更されている。ただこの単語だと、どちらかといえば「女魔法使い」のような意味合いらしい。うぃきによると、魔女を意味するドイツ語の一つである「Hexe」には女庭師という意味もあったという。これはドイツでは魔女が生と死の概念を超えるもの=垣根の上を飛ぶ女と呼ばれていたことから。実際魔女と呼ばれていた女性は、助産婦さんなど出産に関わる仕事をしていた人だったこともあるようだ。

『魔女の庭』というのは生と死の境であり、神聖なものだった。その境界を超えることは赤ん坊をとられるほどの罪だったのかもしれない。もしくは「あちら側の世界の食べ物を食べてしまったことで出来た子供はこの世の者ではない」という意味合いもあるのかも。

ちなみにディズニー映画では魔女の名前となっている『ゴーテル』たが、原作では『Frau Gothel』・・・Frauは女性、Gothelには代母(洗礼に立ち会った人・名づけ親)みたいな意味があるので、正しくは「名づけの親のお母さん」という呼び名のようなもの。個人の名前というわけではないようだ。

はぶかれた性的要素

2版以降は削除された一文が「洋服がきつくなっちゃった」という文章。王子と逢瀬を重ねていたラプンツェルがナニを致していたかがよくわかる文章だ。しかも、ラプンツェル自身は妊娠していることがわかっていない。この文章は後に「王子は軽々登ってくるのにどうしておかあさんはこんなに重いの?」みたいな内容に変えられている。

幼いころからずっと俗世間と関わらず、王子様を見るまで人間の男を見た事もなければ無理からぬことかもしれない。それにしても、ラプンツェルの年は16前後かと思われるのに子供つくっちゃう王子ェ・・・。

ここで気になるのは、
「なぜ魔女はラプンツェルを12歳になったら塔にとじこめ、世間と関わらせなかったのか?」という疑問だが、実は元となったフランスの小説や類似する民話では、姫があまりにも美少女すぎるから男から守らなければ!と妖精が決意する描写がある。

彼女なりに考えての行動が全て裏目に出たことで、後半追放するまで激怒したのかもしれない。

元ネタはパセリだった!?フランスの小説「ペルシネット」

グリム童話『ラプンツェル』の元ネタとなったのは、1790年代のフリードリッヒ・シュルツの小説。(小説商品集という作品らしいが日本語訳はないようだ)。さらにこれは、フランスのド・ラ・フォルスという女性が書いた小説『ペルシネット』のドイツ語訳だったという。

大筋はほぼ変わらないものの、実はお話の中で妊娠していた母親が食べてしまったのはなんとパセリ!

「ペルシネット」とはパセリを意味する単語を名前っぽく呼んだもので、直訳すれば「パセリっ子」みたいな意味となる。

なぜかシュルツさんは「ペルシネット」をドイツ語に訳にした際、パセリからラプンツェル(ノヂシャ)に変えたらしい。とはいえ、妻が妖精の庭の植物を食べてしまい、赤ん坊を連れ去り、女の子は塔で暮らすという一連のストーリーは一緒。

もともとこの類話はフランスなど地中海地方で多い民話らしく、イタリアでは「ペトロシネッラ」として伝えられている。(こちらでは夫ではなく妻自身が畑に入ってパセリを食べてしまっている)

・・・ただ、パセリの精油にはアピオールという成分が含まれており、中世ヨーロッパでは堕胎薬として使われていたこともあるんだそう。イタリアではパセリは妊婦さんに良くない食べ物と言われているらしい。(あくまで成分が含まれているのは葉っぱではなく種子なので、一般の料理ならなんら問題はないと思われる)

そんな食べ物を妊婦さんが食べたくて仕方なくなる・・・という状況はちょっと怖いかもしれない。それに引き換え、ラプンツェルは栄養豊富で妊婦さんの体にいいと言われていた食べ物である。シュルツさんが翻訳した時にパセリから変更したのは、ひょっとするとそんな理由からだったのかも・・・?

とはいえ、
パセリはその時代にはとっても貴重で神聖な食べ物でもあったので、滅多に食べられない立派なパセリに、単純に目がくらんじゃったってだけかもしれないですけどね。

参考文献&サイト様

ラプンツェル
↑ラプンツェルの類話である「ペルシエット」などが読めるサイト様です。

最後に!

もともと魔女の庭にあるハーヴだとか野菜だとかを食べてしまったお母さんが赤ん坊をとられるという民話は多いらしく、野菜の名前をつけられることは珍しくないんだそう。

とはいえ、民話が誕生したのが中世以前なのかはわかりませんが、堕胎薬に使われていたパセリをどうしても食べたくなった妊婦が、(堕胎なども担当していたであろう)助産婦さんに赤ん坊を連れ去られるストーリーと考えれば・・・なーんてつい邪推したくなってしまいます。でも、ラプンツェルもとい類話の両親はみな長い間子供が出来なかったなかやっと授かった待望の赤ん坊だったはずなので、そんな怖い話じゃない・・・はず!

いやはや、たまにはこういった原典の原点を調べていくのも面白いものです。

↓ディズニー版はこうなった!