コメディ度 ★★★
バイオレンス度 ★★★★
女の怖さ ★★★★
結論:女優陣体張りすぎィ!
2003年 日本
監督:堤幸彦
※あらすじ・結末含めたネタバレあり。未視聴の方はご注意ください
※感想だけを読みたい方は目次から
目次
ストーリー
小洒落た都心のとある2LDK。
社長の愛人の趣味で異国情緒を通り過ぎてカオスなことになっているその部屋で、事務所の先輩後輩関係である2人の女優が同居することになった。
自称映画女優で男遊びが激しく大雑把なラナ。
芝居好きの大学生で几帳面な若手女優の希美。
2人は全くソリがあわず、内心では互いにライバル心を剥き出しにしている。
そんな折、映画「極道の女房たち」の監督からヒロインを2人の内どちらかにするという連絡があった。緊迫した状況の中、些細な言い争いをきっかけに始まった喧嘩は、やがてとんでもない方向へエスカレートしていく・・・。
登場人物
橘ラナ(演:野波麻帆)
未だに「だっちゅーの」が口グゼの映画女優。しかし何でデビューしたのか社長すら知らない。
全身を高級ブランドで固め、髪は染めすぎてパリパリに傷んでいるなど見るからにケバケバしい外見。一応ミスなんたらで表彰されているのだが、夜中にカップラーメンやベビースターなどジャンキーなものを好んで食べたりと色々と大雑把。極道を「きょくとう」と読むなど超がつくほどのバカ。そしてい草アレルギー。
部屋には大量のトロフィーや表彰状が飾ってあるが、内容は田舎町の渚の美女コンテスト準優勝や盆踊り大会の優勝杯だったりとどれもパッとしないものばかり。ただし平成元年に九州の美少女グランプリで優勝している。ということは実年齢は20代後半・・・?
実績も無いのに「あたし仕事選んでるから~」と口だけが偉そうなヤツの典型で、希望が好きな劇団を「マスコミに注目されない、オタク相手の可愛そうな人たちでサムいよね~」と見下していた。この女、刺す。周囲には高校生のころ映画デビューしたと吹聴していたが、実際は「女囚サソリ92」というポルノ映画もどきのモブであり、それからはセクシー映画系の仕事しか来なかったらしい。
男遊びが激しく、携帯には野郎の名前が大量に入っているものの、掛けても誰も出ないので実際に遊ばれているのはラナの方である。
実は過去、妻子がいると知らずに付き合っていた男性がいたが、ラナとの浮気が原因で、奥さんが生まれて間もない赤ちゃんと一緒にバスタブで手首を切って自殺。それがトラウマとなっており、睡眠薬を大量に服用するなど病んでいる面も。
松本希美(演:小池栄子)
ラナの後輩。
佐渡ヶ島出身で、女優を目指し上京してきたばかりの若手女優。1982年生まれの21才。早稲田大学の学生でもある。
冷蔵庫の卵一つ一つにまで名前を書き、互いの風呂後には髪の毛すら残すことを許さないなど異常に神経質で几帳面な性格。
小さい頃「オズの魔法使い」のお芝居でヒロインのドロシー役となって表彰された経験から映画よりは演劇が好きで、ナイロンやキャラメルボックス、カムカムがお気に入り。自室にはシェイクスピアの小説がたくさんある。
部屋では常にジャージ姿で地味(でもブラの色は真っ赤)。
胸はデカいが男っ気がなく処女である。頭の悪そうなラナを見下しているが、なぜこんな女がモテるのかと内心では対抗心を燃やしていた。だが元々の性格の齟齬、好意を寄せていたマネの江崎がラナとも関係を持っていたと知り、ついにブチ切れてしまう。
その他のキャラ
■ルル(オウム)
社長のペット。2LDKの同居人。
事務所の社長の愛人(ペルー人)が「2人の思い出に」と残していった。ペルーではオウムは神様の生まれ変わりらしい(余談だがナスカの地上画にもオウムがいるそうな)。社長からは随分と大切にされているようで、いわく「ルルに何かあったら事務所クビにする」とのこと。なお、オウムは実際はペットとして飼うのは非常に困難な生き物である。
■江崎拓也
声のみ登場。
先月辞めた事務所のマネージャーで、希美の大学の先輩。希美とデートの約束をしていたが、以前はラナと関係を持ち寝た事もあるらしい。しかし、ラナの電話には出ないのに希美の電話には出たり、希美と頻繁に連絡をとろうとするなど実際は希美に気があった様子。
あらすじ
きっかけは些細なことだった
希美のシャンプーを勝手に使ってしまいキレられるラナ。数本の髪の毛が残っていたことすら気にする希美にドン引くも、表面上は謝ったフリをしながら、希美がお風呂に入っているスキに江崎の着信を消したり、江崎とのメールを見せ付け嫌がらせをする。
が・・・
「先輩私のピュアーインコラーゲン飲みましたよね?」
と希美から再びキレられる。
しかし希美もまた、冷蔵庫から飲み物をとる際フタがゆるんでいたラナの化粧品を倒してしまい、中身を少しこぼしてしまっていた。売り言葉に買い言葉。徐々に2人は、本格的に険悪なムードになっていく。
醜い言い争いが終わり・・・。
バスタブで、血塗れの主婦と赤ん坊の幻を見てしまったラナ。
トラウマからくる情緒不安定&ストレスがマッハな状況で一線を越えたのか、爆音ロックをBGMに、奇声を発しながら狂ったように泣き叫び踊り続け、薬を大量に飲みこむ。
言葉が通じないラナの様子を見て、気を落ち着かせようとピアノを弾き始める希美。だが彼女もまた同様にぷっつんしてしまい、白目を剝き絶叫。超音波を発し窓をぶち割る。この時の小池栄子さんは貞子並に怖い。
が、次の瞬間。
憑き物が落ちたかのように素直にラナに謝罪する希美。
希美からお詫びのマッサージを施されながら、「私、人殺しちゃったの」と告白するラナ。以前付き合っていた男の奥さんが、浮気が原因で赤ん坊を道連れに自殺したことを話す。ラナは妻子がいたとは知らなかったが、未だに死んだ二人の姿がトラウマとなっていたのだった・・・。
そのまま丹念にフェイスマッサージをされるも、そこでようやく希美が使っていたのがマッサージ用のオイルではなく、ラナが愛用しているオイルパッドブラのオイルだと気付く。聞こえてくるのは、希美の嘲笑。
「先輩、そんなに簡単に人を信用しちゃダメですよ?」
その一言が、
闘いの始まりを告げるゴングとなった。
第一試合~超絶怒涛のキャットファイト
互いにビンタをぶちかましながら、怒りのあまり江崎とヤッたことを暴露してしまうラナ。その言葉で完全にブチ切れた希美は、
・い草アレルギーのラナを畳に押し付ける。
・ラナの部屋をケチャップまみれにする。
・彼女の唯一の美少女コンテスト優勝トロフィーもぶち割る。
・・・などなど、
怒涛の物理攻撃&精神攻撃を繰り返す。
そしてこのショックでラナの理性も完全に崩壊。
何故か部屋に放置されていたチェーンソーを持ち出し、シャイニングのジャック・ニコルソンよろしくドアをぶち破り、ガチで希美を殺そうとする。が、電源コードの長さが足りず未遂に終わる。
↓
お次はキルビルよろしく日本刀VS十手というカオスな戦闘に発展。
↓
武器が壊れると己の肉体のみで勝負する2人。
もはやビンタすら使わず、相手の顔面に拳を繰り出す。
↓
双方、顔面ボッコボコ。
もはやヒロインとかどうでもよくなっているとしか思えない。
だが希美の十手が見事に脳天を突き、ラナ気絶。
第一試合は希美が勝利する。
第二試合~空前絶後の感電地獄
江崎からの電話に出る希美。
電話口で「スキだよ」と告白されるも、そのまま無言で電話を切る。
ラナから生卵をぶつけられながらも、「はじめて男を捨てた」「あたし、きっと女優になれる」と恍惚の表情を浮かべ、馬乗りになってラナの顔面を殴りまくる希美。さらに、「燃えてまえ。い草の案山子」と言う希美の手には火が・・・。
しかし。
ガスを全開にして、逆に一緒に死ぬ覚悟があるのかを問うラナ。そのまま火を消した希美を「臆病者」と罵り顔面にポッドのお湯をぶちまけると、そのまま希美をバスタブに沈め水責め&電気攻撃!!「でんきー!」と笑いながら、何度も何度も何度も何度も感電させる姿は完全にイっている。
が、暴走時に飲みすぎたメラトニンがこのタイミングで効いてきてしまい、慌てて吐き出そうとする。
そんなラナの後ろで、ゆっくりと起き上がる希美・・・。
彼女の手には、殺菌効果抜群のカビキラーが握られていた。
ボコボコの顔面に噴射され悶絶するラナ。
だがなんとか反撃し、第二試合はラナの辛勝となった。
最終試合~突然の百合
手首を拘束された状態で目覚める希美。
誰も知らないラナのデビュー作の話を聞き、彼女が今回の映画のヒロイン役が本当にラストチャンスであることを知る。
だが希美が辞退を申し出るも、
なけなしのプライドがそれを許さないというラナ・・・。
「いなくなれ。おまえ」
と、ラナがアイスピック片手に迫る!
しかし・・・
「キスして。」
ここに来て希美からいきなりの百合発言。
・・・ではなく、ファーストキスをしないまま死ぬのはイヤだと、今際の際にラナにキスをせがむ。
零れた涙を見つめたラナは、
希美の髪を優しく撫でながら、そっと口づけをする・・・。
だが。
希美の後ろ手には同じくアイスピックが握られていた。
ラストのオチは?
まるで決闘士のように、
互いの首に刃を突きつけあう2人。
希美は「ピンでは難しいけど2人なら」と、コンビを組まないかと持ちかける。
ラナがボケで、
希美がツッコミ。
意外に気が合うコンビだ。
案外ウケるかもしれない。
だが、冗談じゃないと一蹴するラナ。
「私は映画女優・・・」
「「だっちゅーの。」」
それが終幕の合図だったかのように、互いの首に食い込む刃。噴出す血。
さっきまでの喧騒がウソのように静まり返った2LDKに、着信音だけが響く。留守電には、オーディションの結果を告げる声が。
「昨日の極道の女房の件ですが、なんと!なななんと!・・・・・・2人とも合格になりました~!三浦先生が本を書き直してくれたそうです。そんでもって、明日の朝スタッフと打ち合わせを・・・」
小劇場感が溢れた映画
女だけの2人芝居。
リアリティーに溢れまくった上っ面だけの女の仲良しトーク。その影に隠れた本音とのギャップ。そしてキャットファイトというにはバイオレンス過ぎる2人のデュエルにドン引きすること間違いなし!
だが女優陣の体を張ったバトルに堤監督お得意の変な小物が妙にコミカルにハマっており、何故か面白いと思わせてくれる作品。
2LDKという部屋の中で繰り広げられるワンシチュエーションものだが、舞台となるアジアンテイストな部屋には、日本刀や神棚といった「外国人が憧れる日本のお土産ベスト」みたいなものが配置されており、さらに室内にはオウムやピアノ、南国植物や池があったりと、とんだ無国籍空間となっている。
そのためか、2人がどんな突拍子もないバトルをおっ始めようと違和感が無い。厳密にいえばありまくりだが、もう既に異世界のような空気が満ちているので問題にならなくなってくるのだ。
顔面を容赦なく殴り、肉弾戦を繰り広げるラナと希美。互いに暴虐の限りを尽くす2人のバトルだが、ちっちゃい小物を投げつけて「いたっ、いたっ」というような、ドラマのトリックでもよくあった気の抜けた演出は、やはり嗤えてしまう。最後の出血シーンなどは完全にギャグにしか見えないが、この映画はコメディなのか、それともホラー映画に分類すべきなのか・・・悩ましいところである。
オウムの考察のようなもの
謎に満ちたペットのオウム。
実際オウムは、神経質で非常に飼うのが難しい生き物らしい。何かあればやかましく鳴く。騒ぐ。ストレスに弱い・・・こういった性質は、暗にストレスにやられて大音量で奇声を発してブチギレした2人を暗示していたのだろうか?・・・それとも意味なんて特にないのだろうか。
最後に
丁度同じ時期にキルビルが公開されてましたが、あちらと負けず劣らずの謎の日本刀バトルをなぜか繰り広げる今作。
ラナのイラァ・・・とさせられる口調や、希美がキレた時の口調はリアリティ満点で怖い怖い。個人的には怖いのはやっぱ希美でしょうか。通常時のキレ方も怖いし、キレて完全に敬語が消失した後の行動も、ラナより怖い気がします。
ラナは頭も悪いし、どうしようもない女ですが、根が単純でわりと人を信じやすいのもラナの方だと思うんですよね。作中では2回も希美にひっかかってますし。実際は彼女の闇は思った以上に深くって、最後首を刺された後も「これで楽になれる」と少し嬉しそうだったのが切ない感じでした。
そういえばラナに「い草の案山子」っていうシーンがあったのは、ラナが頭が悪い子にかけているのだろうか?それともまさか、「案山子」の主演をしていたことと掛けたシャレだったとか・・・。
69分と短かめな作品ですが、密度はとても濃い映画となっているので、初期の堤さんの映画の雰囲気が好きな人や、ちょっと変わった映画が好きな人におすすめしたい作品です。あと、何気に安藤裕子さんが歌うED「隣人に光が差すとき」が良曲です。ゆーちゅーぶにエイベックス公式がフル版を公開しているので、気になった方はぜひ聴いてみてくださいね!
↓舞台みたいな映画、お好きですか?