ホラー度 ★★★★
美術 ★★★★
ワンピらしさ 異色すぎてほぼ皆無。
結論:ラスト10分が完全にウテナ。
2005年 日本
監督:細田守
とあるボトルメッセージを拾った麦わら海賊団。そこには、オマツリ島への地図とエターナルポース、そして「海賊ならば、仲間を連れて来るがいい」と書かれた手紙が入っていた。その言葉どおり、グランドライン唯一のリゾート地であるという島へやってきたルフィたちは、オマツリ男爵を名乗る男から『地獄の試練』を受けることになるが・・・?
※ストーリーの謎やラストまで完全にネタバレしてます。
※感想だけ見たい人はキャラ紹介やあらすじを『目次』からすっ飛ばしてください。
目次
- 麦わら海賊団
- オマツリ男爵(演:大塚明夫)
- 男爵の部下たち
- その他のゲストキャラ
- あらすじ
- リリー・カーネーション(演:渡辺美佐)
- オマツリ男爵の考察
- 独特の作画と細田節全開の作風
- 納得できない点も多い
- 関連商品
- 最後に!
麦わら海賊団
■ルフィ(演:田中真弓)
地獄の試練なんてやってられっか!と帰ろうとする仲間たちを、
「罠でもなんでも、おめーらなら平気だろう」
「それにおれは、おめーらを信じてるし!」
という言葉であっという間に口説き落とした我らが船長。
だが終盤の妖怪人間ベムみたいな姿は子供絶対泣くと思う。
■ナミ(演:岡村朋美)
ツッコミ役その1。
「ストロングワールド」のドレスコードもいいが、この時の黒ドレス姿も結構可愛い。
■ゾロ(演:中井和哉)
ツッコミ役その2。
まだこの頃はノリがいい。
時かけの津田くんっぽく見えるのは気のせいなのか。
■サンジ(演:平田広明)
ツッコミ役その3。クソイケボ。
彼のみ画面に向かってツッコむ。
「な?バカだろ?」
■ウソップ(演:山口勝平)
第一の試練では純粋なムチゴロウをお得意のウソでもてあそび、第二の試練ではゾロとサンジが苦戦していた敵を撃破するなど活躍する。
■チョッパー(演:大谷育江)
オマツリ島を探索していたところお茶の間パパと出会い、男爵の秘密を知ってしまう。今作では幼女を全力で守ったりと、一人で頑張る場面が多い。そしてなぜかカワウソに間違えられる。
■ロビン(演:山口由里子)
まだルフィたちを名前で呼んでいない頃のロビン。地図に描かれていた花が島になかったことを疑問に思い、ムチゴロウを酔わせ、島の頂上に「リリー・カーネーション」という花があることを聞き出した。
オマツリ男爵(演:大塚明夫)
オマツリ島でルフィたちを出迎えた男。『地獄の試練』と称し出店のようなゲームで勝負をしかけてくる。ニコニコ顔のてるてる坊主みたいなお花を肩に乗せているが、これは飾りではなくイキモノで、ちゃんとしゃべる。
武器は弓矢。彼から放たれた弓は敵を自動追尾し、地面すらえぐるなどかなりの破壊力を持つ。が、悪魔の実の能力者ではないらしい。
部下からは慕われており、よくいる悪役とは違って部下をコケにされて本気で怒るなど、心底仲間を大切に思っている。一方で結束の固い海賊を憎み、わざと仲間をバラバラにさせて、仲間割れを楽しむという一面も。
男爵の部下たち
オマツリ男爵につかえる部下。
大量にいるモブキャラから主要なキャラまで、全員例外なく頭に双葉が生えている。
■ダンサー
フリフリの衣装を着てルフィたちを出迎える、ピチピチの野郎ども。サンジにとってはまさに地獄。
■コテツ(演:綾小路翔)
男爵の部下の料理人。
熱い鉄板の上に牛脂(?)のクツを履き、まるでスケートの如く滑りながら油をひくという芸当をこなす。焼きそばを作ろうとするが、嫉妬に燃えたサンジによってモダン焼きにされてしまった。
ちなみに中の人はOZMA・・・ではなく翔やん。
つまりゲスト声優なのだが、違和感が仕事してない・・・だと!?
ムチゴロウ(演:草尾毅)
「オッス!オラ、ムチゴロウ!」といって登場した。中の人トランクスなのに。
見た目がムツゴロウそっくりなオマツリ男爵一の幹部。男爵を心から尊敬しており、男爵からの信頼も篤い。第一の地獄の試練・金魚すくいで対戦。ペットの巨大金魚・ロザリオちゃんを特製巨大アミですくおうとしたが、ロビン姉さんに華麗に阻止され、チョッパーの活躍もあって逆転負けする。
その後は敗者として客をもてなす係りとなるも、ロビンと乾杯したり、ナミにお酌してもらったりと何かとうらやましいヤツ。一見いつものギャグキャラ要員にみえるが、実は今作きってのホラー要員である。
ケロジイ(演:青野武)
ご老人4人衆のリーダー。
なぜか五・七・五口調。
「ボートに乗り、敵チームの選手にわなげをはめたら勝ち」という第二の試練・輪投げゲームで登場。ナミ&ウソップチームと、サンジ&ゾロチームとそれぞれ対戦した。男爵の部下なことだけあり、ケンカしていたとはいえ、ゾロとサンジが二人がかりでも倒せないほどの実力を持つ。
■ケロショット(演:佐藤正治)
グラサンかけてるご老人。
攻撃担当。
■ケロデーク(演:八奈見乗児)
グルグルめがねのご老人。
修理が得意でサンジたちに壊されたボートを瞬く間に修理、凶悪な兵器に改造した。中の人のインパクトが凄まじい。
■ケロコ(演:山本圭子)
紅一点のおばあさま。一応最年少らしい。
中の人はサザエさんの花沢さん。
DJカッパ(演:池松壮亮)
男爵の部下。どうみてもカッパだが人間。
「~っプ」と語尾にプをつける。どういうキャラ付けだよ。
ゲスト声優その2で、この人は違和感が仕事してる。
第三の試練で登場。遠隔操作も可能な頭のお皿を武器に戦う。ゾロと1対1になるが、なんと鬼斬りを真正面から受けても無傷だった。実力的にはケロジイやムチゴロウにも及ばず、部下の中でも弱いはずだが・・・?
その他のゲストキャラ
■お茶の間パパ(演:国本武春)
家族経営で海賊をやっている。
島にはバカンス気分でやってきたが、金魚すくいをクリアできず逃げ出した。弱っちぃのに子供の前では見栄を張らずにはいられないダメ親父。妻の形見であろう結婚指輪をネックレスにしている。(小説版では映画とは設定が変わっており、妻は男爵に殺されている)
中の人は「にほんごであそぼ」などで有名な浪曲師の国本さん。
■デイジー(演:永井杏)
パパの次女。
母親と似て非常に耳がいい。・・・というか、声にならない声が聴こえているような描写があるので、見聞色の持ち主ではないかと思われる。
■ブリーフ(演:安原義人)
チョビヒゲ海賊団の船長。
オマツリ男爵を倒す為、島にこっそりと抜け穴を作りまくり機を伺っていたが、ルフィたちの力を見込んで「仲間にならないか」と勧誘してくる。
実は男爵に大勢いた仲間を全て奪われており、仲間を失ったルフィを助け、最後まで力になってくれる今作の立役者。
細田監督の自己投影キャラのような気がしなくもない。
あらすじ
※ネタバレしかない。
※長いので見たい方だけ下のボタンから。
リリー・カーネーション(演:渡辺美佐)
今作のラスボスにしてみんなのトラウマ。
島の頂上に鎮座した巨大なモニュメントのような姿だが、植物である。茎(?)から針金のような触手を伸ばして獲物を捕食する。
その正体は、
他者の命を奪うことで、死んだ人間を植物人間として再生することができる「死と再生の花」。オマツリ男爵はリリーに生贄を捧げることで、嵐で死んだ仲間を生き返らせている。だが再生した人間はリリーがお腹がすくと枯れてしまうため、エサにするために海賊をおびき寄せていた。
男爵の肩に乗っている方が本体で、茎が破壊された時は本性を現したのか、とんでもなくグロテスクなヴィジュアルとなった。でもニコニコ顔でもぐもぐしてるシーンも結構怖い。てるてる坊主に見える白い布は、お食事用のナプキンだったりして・・・。
名前の由来は、英語で『転生』や『生まれ変わり』を意味するリーンカーネーション(Reincarnation)から。
この言葉を聴いて真っ先に奥井雅美さんのテッカマンブレードの曲が流れた人は年がバレるね!
オマツリ男爵の考察
リリーの再生能力について
チョッパーが見つけた墓石は、一つ一つに花が供えてあったことから、おそらくレッドアローズ海賊団のものだと思われる。リリーが生き返らせた死人は、地中から生気(?)を循環させているっぽいので、死人を生き返らせるには、遺体をこの島に埋める必要があるのかも・・・?
弓の能力について
元々男爵は弓の名手だったようだが、悪魔の実の能力者に驚いていたことから、男爵自身は能力者ではない。作中では追尾能力を持った矢を男爵が自ら生みだしていたが、その瞬間、肩にいるリリーの表情が変貌するので、矢はリリーが男爵の感情を利用して具現化させたもののように思える。
さらにこの矢は、無機物は破壊しても実際には誰も殺せていない。矢を受けたチョッパーは傷もなく、無数の矢を受けたルフィも血は流れていなかった。肌色が悪くなる描写があったので、生者には毒を与えて気絶させるか、生気を奪うぐらいのことしかできないのかもしれない。
リリーと同化していたのか?
一人だけ年をとっていたことから、部下とは違い死人ではなかった男爵。だが、彼もまた枯れかかったDJと同様、瞳が緑色になる場面がある。(ロビンとリリーについて話すシーン)
リリーがダメージを受けた時、男爵も死人のような顔色になっていたこと、リリーの枝部分が男爵の矢で出来ていたことを考えると、男爵もリリーに寄生されていて、ほぼ一心同体に近い状態になっていたのではないだろうか?
タンポポの花の謎
ラストでロビンが、男爵がいつもつけているゴーグル(?)のそばで、たんぽぽの花が咲いているのを見つける。たんぽぽの花言葉には「別離」という意味があり、死んだ仲間との別離を男爵が受けいれ、旅立った・・・という意味にも受け取れるし、現実と別れ、仲間と共に眠りについた、ともとれる。
花が3本あることにも何か意味がありそうだが・・・。ルフィたちの仲間にまだ完全になっていないロビンだけが気付くというのも、含みがあるような気がする。
独特の作画と細田節全開の作風
細田監督による、異色中の異色作!
アニメのワンピースとは全く違う、監督お馴染みの「人物の影を描かない」作画や、TVシリーズと全っっく違うルフィたちの会話のテンポやギャグの間の取り方、そしてワンピースらしからぬ暗さに、従来のファンは相当面食らったのではないだろうか。聞き取れないような囁き声を多用するとか、よくやったな・・・。
ただ、オマツリ島の美術や、よく動くキャラ、大胆なカメラワーク。テンポのよい台詞回しに合わせたカットといった映像演出は、ストロングワールド以降の作品に次ぐクオリティの高さで、一つのアニメーション作品としてみれば個人的には好きな作品。特に、ナミがムチゴロウと会話している時に、ちょっとずつ何かがおかしくなっていく・・・というホラーな会話劇は、色々とたまらないものがある。
でも終盤の矢のシーンは、あまりにも「百万本の剣」まんま過ぎじゃないですかね監督ぅ!
納得できない点も多い
エンディング曲があってねぇ!というのも不満の一つだが、脚本を途中で監督が変えたっぽいので、氣志団は多分悪くない。きっと最初はこのEDにピッタリなお気楽映画だったんだろう・・・。
最たる不満は、「新しい仲間を創ればいい」という、ワンピースでこれやる必要ある?なテーマ性と、ナミとサンジの仲違いの描写!
特に原作では絶対にやらないであろう、「サンジがナミにも怒る」という描写には違和感しかない。(もしかしたら、第二の試練で輪投げをうけて「負けた」サンジとナミだけがおかしくなるので、ケロジイたちに何かされていた可能性もあるが・・・)
また、「失った仲間と生き続ける男爵」と、「同じように仲間を失いながらも、新たに仲間を作ることにしたブリーフ」という対比も、そもそも仲間を殺され、復讐の対象がいたブリーフと、恨む対象もなく仲間を失った男爵とを同様に語ることはできないように思う。
ルフィもブリーフを仲間とは呼んでも、彼をメリー号には乗せることはないだろう。「唯一無二の仲間を失った時、ルフィはどうなるのか?」というテーマは面白いが、着地点が「新たに創れば~」になるのは、納得できない部分だった。
関連商品
映画ではなぜ「オマツリ男爵」という名前なのか、結構重大なことが一切語られていない。が、これは小説版では説明されている。映画に納得できなかった人は、小説版を一度読んでみた方がいいかも。
~こんな人にはオススメできません~
■原作のテーマ改変が許せない人
「仲間を失っても、新しい仲間を創ればいい」という今作の考え方はある意味原作のテーマ全否定なので、ファンなら受け入れられない人は当然いると思う。
■ワンピースで欝展開とか誰得よ?な人
全体的に暗く、男爵も倒してサッパリする類の敵ではない(今作のルフィはボスを倒す時、必殺技名を言わない。ただ叫ぶだけ)「オレがワンピースに求めてるのはそういうのじゃねぇ!」という人にはオススメできない。
最後に!
男爵をぶっ飛ばして終わりではなく、替えがきくような存在ではなかった仲間への思いとか、その辺りをもう少し掘り下げて欲しかったと思います。個人的には普段は強くて渋い男を演じることが多い大塚明夫さんが、精神的に弱い・・・というより弱くなった男を演じていた、というのもポイント高かったです。こんなにボロボロ泣く演技、あまり聞いた事が無いような・・・?ある意味見所の一つかもしれません。
明夫さんの演技もあって、ラストのオマツリ男爵は本当に可愛そうで可愛そうで・・・。部下もいい子達で、ルフィと同じくらい仲間を大切にしていた人だったろうに、たくさんの人を殺めているとはいえ、もうちょい救いが欲しかったですね・・・。
↓ワンピ映画の感想はこちら!