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【読書感想】フランケンシュタイン~ゴシック小説の傑作!名も無き怪物の哀しみとは・・・※ネタバレあり

フランケンシュタイン (新潮文庫)
──何故、俺を造ったのか──

フランケンシュタイン 新潮文庫
訳:芹澤恵
原題:フランケンシュタイン~或いは現代のプロメテウス
Frankenstein: or The Modern Prometheus
作者:メアリー・シェリー

フランケンシュタインとは?

フランケンシュタイン。
この名を聞けば、ドラキュラや狼男などの怪物たちと並び、誰もが大男の怪物を連想するほど有名な言葉ですが、本来、「フランケンシュタイン」とは怪物を作り出しだ科学者の名前であり、実際の"怪物"は本編では名前が無いままだということはご存知でしょうか?

「フランケンシュタイン」と聞いてまず思い浮かべる姿。ゴツくてデカい図体、継ぎはぎだらけの顔に広いデコ、頭や首に刺さったボルト・・・

これらのイメージは、1931年の映画「フランケンシュタイン」で、ボリス・カーロフが演じ世界中で有名になった怪物の姿であって、原作の「フランケンシュタイン」では怪物についてこのような明確な描写は無かったりするそうで・・・。

かくいう自分も上述の様なフランケンシュタインのイメージしか知らず、映画やアニメの影響で「人の言葉が喋れない、馬鹿力、粗野な振る舞い」そんなイメージしか持ってなかった人間の一人でした。

が!
ホラー好きとして原典を知らないのはまずい!と思い、今回読んだのが「フランケンシュタイン」。"怪物"の真の産みの親、メアリー・シェーンのゴシック小説です。

果たして、怪物の本当の姿はどう描かれているんでしょう?

原作の"怪物"

原作の怪物は死体を継ぎはぎして造られた経過は一緒ながら、自らを捨てた創造主に対し言葉を流暢に話し、人の愛情や徳を理解するなど、普通の人間と変わらない理性や知性を持ち合わせています。
姿が恐ろしいだけで善なる人間とほぼ変わらない思考をしていましたが、人々に受け入れられず、恐ろしい容姿から暴力を受け拒絶されたことで、段々と人間そのものに憎しみに近い嫉妬や激情を募らせていきます。

結果人を殺めながらも、創造主であるフランケンシュタインに対して「自分と同じ存在=伴侶を造れ」と要求します。

原作の怪物は、ただひたすらに自分を愛してくれる誰かを求め続ける、極めて「人間らしい」怪物なのです。

本当の"怪物"は誰か。

フランケンシュタインの「人間を創造する」という目的の為、死体を継ぎはぎして作られた怪物。フランケンシュタインは自らが作った怪物の醜さに怯え逃げ出し、生まれてすぐ怪物は創造主から捨てられてしまいます。言葉も何もわからず彷徨い続けた怪物は、自分の醜さに絶望しつつ、たった一人で孤独に過ごします。

とうのフランケンシュタインは、自らが作り出した恐ろしい怪物に対し目をそむけ続け、自身の家族を殺したのがフランケンシュタインと知っていながら、周囲にはそれを告げず、おかげで無実の罪で人を死なせてしまったり、怪物との「伴侶を造る」という約束を反故にしたりと、ロクなことしてねぇ・・・

・・・作中で一番"怪物"なのは、実はこのフランケンシュタインじゃないだろうか?
読んだ後そんなことを思いました。

果たして、本当の怪物とは何なのか?

当初怪物は、逃げた先の村で出逢った貧しくも心優しい一家に心奪われます。
何とかして、この一家に受け入れてもらいたい、姿は恐ろしくとも、自分の性根を知れば受け入れてくれるかもしれない──

が、願いむなしく、自身の恐ろしい姿から恐怖された怪物は、暴力によって追い払われてしまいます。
自分を生んだ人間からも愛されず、全ての人間から醜さを疎まれながら、蔑視され、唾棄されながら誰からも愛されることを知らず、誰も愛する事が出来なくなってしまった哀れな怪物。

怪物を本当に怪物にしてしまったのは、周囲の人間の蔑みなのではないだろうか。
だとすれば、人間は誰しも怪物になる面を持っているのでは──

とか、そんなことをつらつらと考えさせられる小説でした。

ラスト、創造主であるフランケンシュタインも憎しみのうちに死に、フランケンシュタインを看取った冒険者の男に対し、「自分が死ねば終わる」と北の地で一人果てると伝える怪物。

たくさんの命が無意味に果て、何の救いも無く一人死んでいく怪物。
ただひたすらに、哀しいラストでした。

これがイマドキの物語なら、きっと怪物にもフランケンシュタインにも何かの救済措置は遺されているのでしょうが、一切の救い無く、無常を描ききったこのラストが、この作品を傑作たらしめているのでしょう。