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【実写映画】ゴーストインザシェル ネタバレ感想~アニメ版とのストーリーの違いや小ネタについて。

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スカヨハの美人度 ★★★★
ストーリー ★★

結論:ゴーストが囁かない。

2017年 アメリカ
原作:士郎正宗
監督:ルパート・サンダース

目次

ストーリーと世界観について

士郎正宗氏の漫画「攻殻機動隊」を原作としているが、主人公が世界初の全身義体の成功例であり、9課に配属されてまだ1年ほどという設定になっており、電脳化が世に広まったものの、全身義体化までは進んでいないという、サイボーグ技術の発達がまだ初期の段階の世界を描いたものとなっている。そのため、ゴーストハックに対してのセキュリティがまだ確立されていない、義体が武器扱いされている・・・など各作品との差異が大きい。

また、町の風景は押井守監督によるアニメ映画「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」に近いものの、どこかディストピア的な雰囲気があったアニメ版とは違い、カラフルな3Dの広告がひしめく、いかにも近未来の都会といったイメージになっている。町並みの雰囲気は完全に中国で、ところどころ変な日本語の看板がある。高い高いってなんぞ。

また、キャラクターや設定の一部が「イノセンス」や神山健治監督のTVアニメシリーズ「S.A.C. 2nd」から流用されている。

あらすじ

とある女性を乗せた難民ボートがテロリストの襲撃により難破。女性の両親は死に、女性自身も瀕死の重傷を負うも、奇跡的に無事だった脳は義体に移され、女性は世界で始めての、全身義体の成功例となる。

1年後。
彼女は公安9課に配属され、ミラ・キリアン少佐として活躍していた。機械の体を完璧に使いこなすも、ときおり幻影(ノイズ)を見るようになり、メンテナンス係のオウレイ博士に消去してもらう日々が続く。

そんな中、ミラの義体を作ったハンカ・ボディテク社の研究者たちが次々に殺される事件が起きる。犯人はクゼと名乗る男で、電脳をハックして他人を操るハッカーだった。

「ハンカと組めば破滅する」・・・謎の言葉を残したクゼを追いつめるミラ。だがクゼから、自分が殺した研究者たちは、プロジェクト2571という全身義体開発の実験に関わっており、自分は実験の失敗例として棄てられ、全てを奪われたと言われる。そのプロジェクト関係者のリストの中には、ミラの義体を作った張本人で、いまだメンテナンスも手がけているオウレイ博士の名前もあった。クゼを捕まえ損ねたミラは博士を問い詰め、彼女から真実を聞く。

プロジェクト2571とは全身義体の兵士を作り出す計画で、ミラの前に98人の人間が犠牲となっていたこと。ミラが今まで信じていた記憶は会社によって植えつけられたニセモノの記憶であること・・・。全てを知ったミラはハンカ社の社長・カッターに殺されそうになるも、博士の手助けによって脱走。彼女から貰った自分の『本当の記憶』を頼りに、実の母の元を尋ね、過去を取り戻す。

一方そのころ。
カッターがミラにオウレイ殺害の罪をなすりつけ、ミラの『処分』を9課に依頼していた。

結末(※ネタバレあり)

ミラの本当の名前は「草薙素子」。
気性が激しかった彼女は、政府が推し進める義体化の流れに異議を唱え家出をし、反体制派の仲間たちと共に暮らしていた。そこにはクゼヒデオの姿もあった。だが隠れ家がカッター率いる組織に襲撃され全員が捕らえられ、プロジェクト2571の実験に利用されてしまったのだ。

焼け焦げた隠れ家で、全てを思い出したクゼと素子。だがそこへカッターが仕向けた多脚戦車が猛攻をしかける。応戦するも、ボロボロになってしまう2人。一緒にネットの海へ行こうと誘うクゼに、私の世界はここだと応える素子。クゼは、ならば自分が素子のゴーストのそばにい続けると言い残し、頭部を破壊されてしまう。だが9課の応援が駆けつけ、素子は無事生き残り、荒巻の手によって諸悪の根源であるカッターも葬られた。

過去を取り戻し自分が何者かを知った彼女は、これからも9課の少佐として、この心と機械の体を持って正義を為すことを誓い、今日も闘い続ける・・・。

登場人物

ミラ・キリアン少佐(吹:田中敦子)

攻殻 実写

演:スカーレット・ヨハンソン

原作の草薙素子に当たる人物だが、設定は大きく異なる。見た目で一番近いのは「ARISE」の素子。(よく似た赤い服を着ているシーンがある)。

実写版では世界初の全身義体の成功例であり、9課に配属されてまだ1年しか経過していない。が、なぜか階級は少佐らしくみな少佐と呼ぶ。戦闘能力は高いものの経験という点で未熟なせいか、既存作品と比べて攻撃を受けたり倒れたりする描写がかなり多い。なのでゴーストが囁いたりはしない。

原作では電脳と機械の体で「自分と呼べるものはどこにあるのか」と悩んでいたが、今作では過去の記憶があまりないことや、全身義体が自分だけである孤独についての悩みが大きい。押井版と同じくダイビングが趣味だが、恐れを感じることで「生きているという感じがするから」という理由で潜っている。

序盤、ネコの幻などノイズに悩まされていたが、それは薬でも抑えきることのできなかったゴーストが持つ本来の記憶であったことが終盤に判明。本名が草薙素子であることが解る。記憶を取り戻した後、あらためて母親と再会した。

荒巻(演:ビートたけし)

荒巻 ビートたけし

9課のボス。
押井版では指揮担当でアクションは全くないが、今作では自ら銃をふるい襲撃者を返り討ちにするなどやたらアクティヴ。演じているのがビートたけしさんなので一人だけ日本語を喋っており、基本他のキャラとは字幕で会話しているようだ。

原作同様に素子や部下たちへの信頼は厚く、カッターから疑いをかけられた素子を信じきったり、武器扱いされている素子に優しい言葉をかけるなど、良き上司となっている。

その他のキャラ

■バトー(吹:大塚明夫)
演:ピルー・アスベック

今作でも少佐の良き相棒。
序盤ではまだ目は人間のままだが、捜査の途中で事故に遭い、両目を義眼に変えた。犬好きという設定で野良犬にしょっちゅうエサをやって可愛がっているが、この時の野良の中にイノセンスで飼っていた犬・ガブリエルが登場。のちに自宅で飼っている。

吹替え声優はアニメ版同様大塚明夫さんが担当しているが、映画版よりも茶目っ気が残っている、サイボーグではないバトーを演じるにあたり、印象や声色がアニメ版とは被らないような演技になっている。

■トグサ(吹:山寺宏一)
あまり出番はないが、銃を持つシーンがある。一瞬すぎてマテバがどうか確認できなかったのが痛恨の極み。

■クゼ(吹:小山力也)
神山版「攻殻」である「SAC2nd」に登場したテロリスト。吹替え声優も同じ小山さんが担当している。今作では素子の前に義体実験に利用されるも、義体に脳波が定着せず捨てられ、機械部分が剥き出しとなった不気味な姿となっている。

過去設定は異なるが、他人の電脳を使ったネットワークといった設定や、捕らわれる前は素子と恋仲同士だったという設定はアニメ版を参考にしていると思われる。

押井版に登場する「人形使い」の役回りも兼任しており、中盤では清掃員にニセの記憶を植え付け操ったり、終盤では素子のゴーストの一部になったような描写がある。

■オウリイ博士(吹:山像かおり)
ミラの産みの親ともいえる人物。完全義体を創り上げるまでに犠牲を多く出したものの、唯一の成功例であるミラには愛情を抱いており、カッターの命令に背いてまでミラを救った。その後、カッターに射殺される。

■カッター(吹:てらそままさき)
ハンカ・ボディテク社の社長。
今作の悪役にして諸悪の根源。全身義体の兵士を武器として政府に売りさばくため、反体制の家出少年たちをさらい実験に利用した。最後はみっともなく命ごいをするも、荒巻課長に射殺される。

■素子の母親(演:桃井かおり)
「アヴァロン」というマンションにネコと共に住む女性。1年前に家出した娘が亡くなっている。ミラと初めて出逢った時は、義体になっているにも関わらず自分を見る時の目が娘と似ているといっていた。

アニメ版の再現シーンは多い

冒頭は押井版と同様「謡」のアレンジバージョンが流れるなか、義体作成のシーンからはじまるなど、アニメ映画を再現した場面はかなり多い。光学迷彩を使うシーンや攻殻落ちは勿論、人形使いにハックされたあの清掃員が登場したり、アラクニダ戦でフタを開けようとして腕が千切れるシーンがあったりと、主要な場面はかなり再現されている(そこに至るまでの設定や配役が違う場合が多いけども)。

また素子の母親が住んでいるマンション名が「アヴァロン」と、押井監督が作った実写映画のタイトルと同じだったりと、小ネタも多い。

感想:わかりやすいヒーローものになっちゃったストーリー

原作や押井版の映画では、人間と機械を分けるものは何か。何もかもが機械となった体で、自分と呼べるものはどこにあるのか・・・という「ゴースト」とは何か?という大きなテーマがあったが、今作では「ゴースト」にはそこまで深く触れず、あくまでもミラ少佐の失くしてしまった『記憶』そのものに焦点があたったストーリーに変更。原作やアニメ版から哲学的な部分を削ぎ落とし、サイボーグとして生まれ変わった悲劇のヒーロー的なノリにした感じ。なのでストーリーはかなり解りやすい。

が!
ミラも元々は義体化に反対して反政府側の人間だったという、これまたわかりやすい社会悪との構図や、悪役をぶっ飛ばしたらめでたしめでたし、「機械の体に生まれ変わっちゃったけど記憶も取り戻したし、これからも私、正義のために戦うわ!」という・・・よくある展開になっちゃったのは残念。

ただ攻殻を1ミリも知らない人でも理解しやすいストーリーになっているので、初見の人に優しい作りになっているともいえる。

最後に!

スカヨハさんが文句なしに美しい!キャスティングはたけしさん含めて不満はないです。

ただストーリーに関しては、決してまとまってないというわけではないんですが、(お母さんがベラベラと娘のことを話すくだりは、ちょっとご都合主義かな、とも思うけど)、テーマがわかりやすくなってしまった分、どうしても物足りなさを感じてしまいました。タチコマもでないし・・・というかタチコマじゃなくアラクニダなんだから無理してしゃべらせる必要なくない!?

全体的にアニメ版の構図を多用しているものの、ブルーやオレンジなど色調を統一していたアニメ版と比べ、やけにカラフルなのが個人的には一番気になりました。押井版の真っ暗な海から浮上する印象的なダイビングシーンも、水面がカラフルにキラキラ光っててなんか興ざめしてしまうという・・・この辺は単に好みなんでしょうが。

ただ、素子ではなく上位の存在として生まれ変わり町(下界)を見おろしていた押井版のラストとは違い、こちらのラストシーンでは相変わらず攻殻落ちしまくっていたので、あくまで「9課の素子として生きる」ことを決意してくれたというのは、人によっては嬉しいかもしれませんね。

攻殻一度も見た事ないし、なんか難しそう・・・という人には気兼ねなく見てもらえる作品ですが、原作や押井版のあの難解さこそが魅力!と思っている人には、あまりおすすめできないかもしれません。

↓押井版の感想はこちら!