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【映画】虐殺器官 感想(ネタバレあり)~原作との違いについて。改変部分はかなり多め!

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地獄はここにあります。
頭のなか、脳みその中に。

グロ度 ★★
キャスト ★★★
結論:端折りすぎじゃね・・・?

2017年 日本
監督:村瀬修功
原作:伊藤 計劃

※原作との違いなどネタバレあり。未読・未視聴の方はご注意!※
※感想だけを読みたい方は目次から。

目次

登場人物

■クラヴィス・シェパード(演:中村悠一)
主人公。
アメリカの情報軍であるi分遣隊に所属している。階級は大尉。
原作では少年時代に父親が自殺、母親も交通事故で脳死状態となり、延命を自分の意思で拒否したことで、死者の国の悪夢を見るなど罪の意識を持っていることが描かれていたが、映画版では両親の死の描写はない。また、原作にあった「映画好き」という部分も描かれない。

■ウィリアムズ(演:三上哲)
ゴシップ好きなクラヴィスの同僚。
クラヴィスの相棒のような存在で、妻子持ちや終盤の役回りなど、原作とほぼ変わらない人物。

■アレックス(演:梶 裕貴)
クラヴィスの同僚。
映画版ではPTSDの処置に誤りがあり、序盤の元准将を射殺し、クラヴィスに射殺された。
原作ではクリスチャンで、よく神についてクラヴィスと話していたが、後に自ら命を絶つ。しかし彼の「地獄はここ(頭の中)にある」という言葉はクラヴィスの中で生き続けていた。

■ルツィア(演:小林早苗)
ジョン・ポールの元愛人。
現在は外国人相手にチェコ語を教えている。ジョンと彼女の元を尋ねたことで調査対象となり、クラヴィスが生徒のフリをして接触を図ることとなった。
ジョンが彼女との逢引中に妻子を亡くしたことから、罪の意識に苛まれているも、ジョンのことを今も愛している。

映画ではあまり深く描かれないが、原作ではクラヴィスは明確に彼女に好意を示しており、(母親を殺した)自分の罪に対して赦しを乞う存在となっていた。

■ジョン・ポール(演:櫻井孝宏)
クラヴィスたちi分遣隊が追う暗殺対象。
世界各地で虐殺を引き起こしている「虐殺の王《ロード・オブ・ジェノサイド》」とも呼ばれる。元々は優秀な言語学者で、国防総省から資金援助を受けていた。その時、虐殺に関わる膨大なテキストを研究した結果、"虐殺の文法"という、長く聴き続けるだけで、人間を特定の傾向へと導くことができる文法を発見する。

妻子をサラエボのテロで亡くしてからは悲劇を終わらせるため、自分たちの国に敵意を向ける前に貧しい国の人間同士で殺しあうように、国の文化宣伝関係を担当し、虐殺の文法を広めていた。

母親や死者の国など、クラヴィスの内面描写はほぼカット

行く先々で虐殺を起こす謎の男・ジョン・ポールを追う暗殺者・・・という話のおおまかな流れは一緒。しかし原作から省かれている要素も多く、中でも一番大きな改変は、「主人公の母親の死が一切語られない」という点。原作では何度も繰り返し登場した死者の国の描写も一切ない。あくまでセリフ上で、死者の国の悪夢を見ている事が語られるのみ。

また、映画ではルツィアに対しての恋情も明確には描かれないので、クラヴィス個人の内面については掘り下げられることがない。自分は原作を読んだ状態での視聴だったが、未読の人は、クラヴィスのルツィアに対しての執着は些か性急に映ったりはしなかったのだろうか?

原作では、母親を殺したこと、命令されるまま人を殺し続けていた罪の赦しをルツィアに求め続けており、彼女を喪った事で「もう誰にも赦してもらえない」というセリフと共に、アメリカ全土を虐殺の坩堝へと突き落とすラストへと繋がる。しかし、この辺りのカタストロフィへと至るまでの盛り上がりが、映画には欠けていたように思う。

ジョン・ポールの死因の改変

原作ではルツィアの最後の言葉通り、自分が行ってきた虐殺について語る覚悟を決めたジョン・ポールは、そのままクラヴィスの仲間に射殺されてしまう。しかし映画では、ジョン自らの意志で虐殺の文法をクラヴィスに託し、クラヴィスがジョンを射殺。その後、ジョンとの約束のため、クラヴィスが虐殺の文法をアメリカに広めようとするところで物語は終わる。(そのためか、終盤に追加された映画版のセリフは原作のものとは違った意味合いのものになっている)

時間内に上手くまとめるための改変だったとは思うが・・・クラヴィスとジョンがある意味結託してしまうラスト、というのはちょっとどうなんだろうか・・・?交わることのない二人が結局同じことをしてしまうラスト、という所に面白みを感じていたので、この改変は個人的には残念だった。

最後に!

「屍者の帝国」を原作未読で見たらエラい目に遭ったので、「虐殺器官」は原作を読んでから視聴となりました。発売当初からずっと気になっていたにも関わらず、軍事モノか・・・という理由で避けていたあの頃の自分をブン殴りたいと思うほど、小説は面白かったです。しかし映画版は、やはり製作時に色々とトラブルに見舞われたからか、作画面が怪しいシーンもちらほら・・・。グロ描写や暴力描写はとても気合が入っていましたが、人工筋肉の描写などSF的な映像美はあまり見られなかったかもしれません(これは敢えて地味めな演出にしているのかもしれないので、あくまで個人の好みですが)

原作のときめもの名台詞「好きとか嫌いとか最初に言い出したのは誰なのかしら」みたいなパロディ部分や、映画の薀蓄などが省かれているのはまぁ当然なので仕方ないのですが、個人的に一番見たかった「死者の国」の悪夢や、アメリカが虐殺の嵐になっている中、ピザを食べている主人公のラストカットが映像化されなかったこと、アレックスの言葉や存在がそれほど物語に絡まなかったこと、全体的に人物描写が薄かったことなどもあって、どうしても物足りなさが否めませんでした。

とはいえボリュームある原作を、きちんと時間内に綺麗にまとめた映画ではありましたし、改めて作品を知ってもらえるキッカケになったのだと思います。自分も映画になるという話題があったからこそ、原作を読もうと思ったわけですし。

何より、『今』見ることに意義がある作品だったのではないでしょうか。
今は誰しもが言葉で、簡単に人を憎悪できる時代。フィクションではなく現実になろうとしている虐殺の文法。伊藤 計劃さんが生きていたら、この世界の現状を、人間をどう描いたのでしょうか・・・。

↓前作はこちら。