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千と千尋の神隠し 感想~ハクやカオナシの謎、銭婆についての考察※ネタバレあり

千と千尋の神隠し [DVD]
ここで働かせてください!!

カオナシのホラー度 ★★★
ハクのイケメン度 ★★★★
結論:いまだ謎多きストーリー。

2001年 日本
監督:宮崎駿

10歳の少女・荻原千尋は、
引越し先へ向かう途中、両親と共に寂れた街へ迷い込む。が、その街の料理を食べた両親は豚になってしまった!ハクという少年に助けられた千尋は両親を助けるため、魔女・湯婆婆の元で働くこととなるが・・・。

目次

登場人物

荻原家

■荻原千尋(演:柊瑠美)
10歳の少女。
湯婆婆に名前をとられ、湯屋で「千(せん)」として働くことになるが、油屋で働くうちに、お辞儀をする、世話になったらお礼を言う・・・などの礼儀を覚えていく。ちなみに湯婆婆の契約書にかいた名前は「荻原」ではなく「获」。(名前を間違えたのは、神様の世界に迷い込んだ次点で既に名前を忘れかけていたから?)

序盤はふてくされているせいか、ジブリヒロインには珍しくぶちゃいくな面構えをしていたが、中盤からは見違えるように生き生きとした表情へと変わっていく。

■千尋のお父さん(演:内藤剛志)
ブタになる前からメタボ体型だった千尋のお父さん。
本来なら子供の役目である「異世界への迷い手」役であり、子供のような好奇心を持った大人として描かれる。こいつがでっかいぐにょっとした何かを一口で食べる食事シーンは軽くホラー。

■千尋のお母さん(演:沢口靖子)
怯える千尋に「くっつかないで」と言ったり、千尋と歩調を合わせないなど、子供に冷たいともとれる描写がある。化粧をばっちりしていたり、旦那には甘えているようなシーンもあるので、母というより一人の女性という意識が強いのかもしれない。ジブリには珍しいタイプの母親。中の人の組み合わせが科捜研コンビとか言ってはいけない。

湯婆婆の関係者

■ハク(演:入野自由)
千尋が出会った謎のおかっぱ少年。
某囲碁漫画にそっくりさんがいたような気もするが気にしてはいけない。湯婆婆の弟子で、彼女の手駒として扱われている。

ハクもまた「本当の名前」を奪われているが、なぜか初めて会った時から「千尋のことを覚えていた」といい、彼女を幾度も助けてくれる(一度「ハク様と呼べ」と冷たくあしらっていたが、あれは湯婆婆にバレないように演技しているだけ)。

白い龍のような姿に変化できるが、それはハクの正体が、かつて千尋の家の近くにあったという「コハク川」なため。(川、というか水の神は龍の姿をしていることが多い)

本名は「ニギハヤミコハクヌシ(饒速水小白主)」。マンションが建ち埋め立てられてしまい、現実世界で居場所が失くしてしまったことが、神々の世界に迷い込むきっかけとなったのかもしれない。

■湯婆婆(演:夏木マリ)
八百万の神たちを持て成す「油屋」を経営する魔女。
二頭身。顔と鼻がでかい。強欲な老婆で、成金趣味なのか指にゴツゴツと指輪をつけまくっている。が、自分の息子・坊には激甘で、可愛がるあまり「おんも(外)に出ると病気になる」といって部屋から出そうとしない過保護ママでもある。旦那はどこへいったのだろうか。

ハクを使い捨てようとする態度といい立派な『悪役』ではあるが、人間である千尋をなんだかんだで雇ったり、結果を出せば千尋のこともちゃんと褒めてくれたり、お客様でも暴れる輩には自ら対応したりと、経営者としてはやることはやっているのかも・・・?

■坊(演:神木隆之介)
湯婆婆の息子。孫ではない。
物凄く巨大な赤ん坊の姿をしている。が、言葉も喋れるし知能もある。しかし常識は欠如しており、千尋と出会った時は「一緒に遊んでくれなきゃ腕を折る」と脅していた。

銭婆の魔法によってネズミの姿へ変えられた後は千尋と行動を共にし、外の世界を見たことで千尋の友人となった。湯婆婆から赤ちゃん扱いされていたせいか、銭婆の家では自ら回し車で走り回るなど「自分の足で立つ、走る」という行動に喜びを感じたのか、元の姿に戻った後は自分の足でしっかりと立たっており、湯婆婆を驚かせた。

■銭婆(演:夏木マリ)
湯婆婆の双子の姉。
釜爺からは「怖い魔女」と言われている通り、魔女の契約印を盗もうとした者が死ぬように呪いをかけたり、盗んだハクを式神で攻撃したりと容赦がない。が、実際に会うと物腰が穏やかな魔女であり、湯婆婆よりよほど話が分かる魔女であった。

契約印を返しに来た千尋にアドバイスをし、彼女にお守りの髪留め(髪紐)を残してくれた。

油屋の面々

■釜爺(演:菅原文太)
風呂釜にこき使われているじーちゃん。足が2本(?)に手が6本ある。
ボイラー室のような場所で湯を沸かし続け、薬湯の調合なども行う。仕事に厳しい職人気質だが、意外に女性に弱いのか、出会ったばかりの千尋を「ワシの孫だ」といって庇ったり、何かと面倒を見てくれる。「愛だ、愛」は名台詞。

■ススワタリ(演:まっくろくろすけ)
トトロにも登場したおばけ(?)。
今回は釜爺の下で石炭を運び続ける仕事をしている。金平糖が主食。石炭の重みに潰された一匹が千尋に助けられらたのを目撃した際は、他のススワタリたちも一斉に潰れたフリをやりだすなど知恵はある。が、本来はススに魔法をかけて生まれた存在らしく、仕事を失うと魔法が解けただのススに戻ってしまうらしい。

助けられてからは千尋に懐き、靴と靴下を預かってくれている。

■リン(演:玉井夕海)
油屋の従業員。男勝りで姉御肌な性格。
当初は千尋のことを「鈍臭い」と言っていたが、面倒見のよい性格らしく、影ながら心配してくれていた。だが湯婆婆に直接掛け合って従業員となった後は評価が上がったようで、それからは油屋の仕事を千尋に教えてくれるなど心強い味方となってくれる。ぽっちゃり体型が多い女性従業員の中ではかなりスマートで美人さん。背中が大きく開いた彼女の腹かけ姿にドキッとした人も多いだろう。だが彼女自身はどうやら望んで油屋に勤めているわけではないらしく、辞めたら海向こうの街へ行くことが夢だという。

■番台蛙(演:大泉洋
薬札の管理を行うイヤミな番台。
中の人は大泉洋。この映画が初ジブリ出演となった。が、この後ジブリ映画のレギュラーになるとは多分ご本人も夢にも思ってないだろう。
この他にも安田顕さんと佐藤重幸(現在は戸次)さんが出演している。当時はローカル劇団のお三方があのジブリ映画に出演するということで、北海道の一部(主に藩士)は大いに盛り上りがった

■兄役(演:小野武彦)
上には媚びへつらい、下には威張り倒すという典型的なキャラ。
カオナシに媚びまくった挙句、ヘラヘラ笑っていた所を飲まれた。後に千尋に助けてもらった後は態度を軟化させる。中の人は「踊る大走査線」スリーアミーゴズの、青島の上司の人。

■青蛙(演:我修院達也)
声がやたら特徴的なので、脇役なのにやけに記憶に残る蛙。
欲を出して川のヌシの砂金をほじっていたところカオナシに出会い、一番最初の犠牲者となった。

神様&そのほか

■河の神・オクサレ様(演:はやし・こば)
当初、飯が腐るほどに酷い腐臭を放つヘドロの塊のような姿をしていたことでオクサレ様と呼ばれていたが、千尋の活躍によりヘドロを洗い流され、さらに突き刺さっていた大量のゴミを出されたことで元の姿に戻った。

本来は名のある川の主。
千尋に感謝の証として、体内から"悪いもの"を全て出す事が出来る「苦団子」を残す。このアイテムのおかげで、ハクの命やカオナシに飲みこまれた者たちを救う事ができた。

おそらく川の主自体もこの苦団子を使って体中のヘドロを出していたのだろうが、詰まってしまったことや、もはや苦団子を使っても排出しきれないほどの汚れが溜まったことで、オクサレ様と化してしまったのだと思われる。

■カオナシ(演:中村彰男 )
真っ黒いローブ(?)に仮面をつけ、ぼーっと油屋の周りをうろうろしていた。客と勘違いした千尋から優しい言葉をかけられ招かれたせいか、千尋に執着し、千尋が欲しいものを闇雲に持ってくるようになってしまう。基本はわずかに「あっ・・・あっ・・・」という遠慮がちな声を発するのみ。が、拒否されると「え・・・」と悲しそうな声を出すので、感情はある様子。

青蛙を飲み込み言葉を話せるようになると、土くれで出来た金を大量に出し、油屋で客として振舞う。しかし千尋から「欲しくない。いらない」と完膚なきまでフラれると逆ギレ。兄役たちを飲み込み巨大にふくれ、大暴れしてしまう。(この時、実際の口は仮面ではなく、おなか部分にあることが解る)

苦団子を食べたあとは飲み込んだ者を全て吐ききり、大人しく千尋の後をついてきたが、最終的には銭婆の元に身を寄せることとなった。

■おしらさま(演:安田顕
千尋が湯婆婆に面会へ向かう途中、エレベーターの前で出会った大根みたいな姿をした神様。トトロのような優しい目をしている。元となった伝承の「おしら様」は子供好きな神様らしいが、作中でも、エレベーターの中では千尋が潰れないように右手で体を支えていたり、別れ際には千尋にもお辞儀をしてくれるなど、最初から千尋に好意的に接する描写がある。

うぃきによると中の人はヤスケンらしいが・・・あれ、セリ・・・フ??
実際のヤスケンのセリフとしては、オクサレ様がやってくることを湯婆婆に伝える時の「まっすぐこちらに向かってきます!」の方がわかりやすい。

■オオトリ様
温泉たまご・・・じゃなくてひよこの神様。
作中ではモブとして画面の端々に登場し、そのアホ面で可愛らしさをアピールしている。
が、実は卵のまま食べられてしまったひよこの神様という欝設定がある。

ハクの謎~なぜ魔女に弟子入りしてまで魔法使いになりたがったのか?

釜爺の話によれば、彼もかつて千尋と同じくふらっとこの世界に現れ、魔法使いになりたいと湯婆婆の弟子となったという。名前を奪われたのは恐らくこの時。

実は絵コンテによれば、「元々油屋の従業員たちは、湯婆婆の契約書には偽名を使っており、そのため完全に支配はされておらず、自分の意思で働いている」という設定があったという。実際の映画でもこの設定が適用されるかはわからないが、弟子入りする時ハクは本名を教えてしまい、そこで名前を奪われて完全に支配されてしまったということなのかも(呪いの虫を体に入れられたのもこのせいだろうか)。

ただ、そうまでしてなぜ魔法使いになりたかったのか?という謎だが、彼の本来の姿である川を復活させようとしたのか、奪った人間に復讐したかったのか・・・。そんなネガティブな願いだったのかはわからないが、魔法の力で「自分の居場所」を作り出そうとしていたのかもしれない。

ハクが盗んだ「魔女の契約印」とは?

 上述のとおり、湯婆婆は完全に従業員を支配できているわけではない。が、絵コンテによると、銭婆が持っているこの契約印を使えば、従業員たちを完全に奴隷にすることができるのだという。(銭婆が盗んだものが死ぬような呪いをかけたのはこのため)

また、命令には逆らえず盗んだハクも、それを湯婆婆には渡さなかったのはこのあたりの事情を知っていたからなのではないだろうか。

ハクの本名=饒速水小白主について

速水とは「流れの速い川」につけられるもの。
頭の「饒(にぎ)」という言葉だが、豊饒にも使われるように、ありあまるほど多い、といった豊かさを表す漢字でもある。だとすれば「水量が豊かで流れが速い川」という意味なのかもしれない。(千尋が溺れたのはそういう理由もあったのだろう)

「小白」というのは単純に「白い」という意味があるようなので、神様としての姿が白龍であることからついたのかも(ハクが12歳程度の少年に見えることから、神様としても若い方、という意味もある?)。

あと気になるのは、「古事記」には、饒速日命(ニギハヤヒノミコト)という神が登場すること。ただこの神自身謎が多く、「饒速」という言葉にどんな意味があるのかは調べても解らなかったため、関係があるのかは不明。

カオナシの正体

自分の言葉で話すことが出来ず、他人の「言葉」でしかしゃべることが出来ないカオナシ。ただひたすらに、欲しい、欲しいと際限なく求める彼(?)は、湯婆婆いわく神様ではないという。ならば彼の正体とは何なのか?
恐らくは、暴走時に手足が生え、頭部にはうっすらと髪の毛らしきものも現れたことから、カオナシは「人の欲」そのものだと思われる。

千尋から住んでるところや両親の話をされたときに答えなかったのは、カオナシは欲から生まれた存在であるため、彼もまた帰る場所も、そして居ていい場所も、現実世界にも神様の世界にもないのだろう。

結局は銭婆と共に暮らすことになるが、それはカオナシが油屋のような金儲けをする場所、欲が溢れている場所では周囲の影響を受けて危険な存在となるため、欲のない場所にいた方が無害な存在で居られるということなのかもしれない。

ちなみに、イメージアルバムには宮崎さんが作詞したカオナシの歌がある。「さみしい さみしい」というタイトル通り、カオナシがひとりぼっちの淋しさを抱えている・・・という内容だが、
「欲しい」
「食べちゃいたい」
「君、おなかに入れたいの」

というぞっとするような言葉が並び、ボク欲しい→ボクが欲しいものはきみもきっと欲しがる→だからあげる→だからきみをちょうだい・・・というカオナシの思考が描かれている。歌はムッシュかまやつさんが担当し、曲調は明るいのだが、それがかえって怖いともいえる。

さみしい さみしい

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銭婆について~彼女は何者だったのか?

湯婆婆の双子の姉、銭婆。
釜爺からは「怖い魔女」と呼ばれ、その言葉通りに「契約印」を盗んだものには死のまじないをかけている。が、実際の彼女は非常に優しい魔女でもある。

しかし、作中では銭婆についての情報はあまりない。
「2人あわせて一人前の魔女」「昔からあわない」、といった情報はある。湯婆婆が経営者として働き、野心的で金にがめついなど世俗的であるなら、彼女は魔法の力をあまり使わず、辺鄙な場所で自給自足の質素な生活を送っている、対極的な姉妹であることは解る。

しかし疑問なのは、
性格や思考が正反対で、対極的なはずの銭婆は、なぜ服装まで妹と一緒なのだろうか?特に、質素な生活で贅沢を好まないはずの銭婆が、湯婆婆と同じように指輪をゴロゴロつけているのも少々ひっかかる。身につけるアクセサリーまで一緒なのはなぜだろう?かつては銭婆も、湯婆婆のようなセンスだったのか?とも思ったが、湯婆婆のことを「ハイカラじゃない」といっていたことから、恐らくはそれはないように思える。

まるで鏡写しのように、外見はそっくりな姉妹。
もしかして、「2人で一人前~」という言葉どおり、彼女たちは元々は本当に一つの存在だったんじゃないだろうか? 何らかの原因で分かれたとき、世俗的な部分や欲が妹に残り、姉にはそういった部分がなくなった。妹が一方的に姉に対抗心を燃やしているのはそのためなんじゃないだろうか。

もちろんこれは完全なる妄想である。
元々当初のイメージでは、銭婆はスマートで美人という設定で、そのことに湯婆婆がコンプレックスを感じてた、というもっとわかりやすい対比がされていた。今作でも、おそらく魔法の才能で差がついてしまい、そうしたコンプレックスによって経営や金に力を注いだのが湯婆婆、ということなんだろう。

最後に!

最強に余談ですが、おそらく、大泉さん、ヤスケン、シゲさんは、序盤の千尋が階段を駆け下りたあと、小窓から蛙が煙草をふかしているシーンのバックのガヤを担当していると思います。(書籍とかで確認してないので完全に自分の耳頼りですが・・・)

親の加護がない状態で千尋が自立していくストーリーでもありますが、大変な時でも、助けて支えてくれる人間の大切さも描いているような気がするんですよね。ハクや釜爺、リンがいてくれたからこそ千尋は成長できたわけで。でも湯婆婆のように、親だけがただ可愛がって育てても、子供はいつまでも成長することができず、体だけが大きくなってしまうという・・・。

ただ、序盤こそ解りやすい少女の成長ストーリーですが、やはりいま見ても銭婆関係の展開は謎が多く、この映画以降のジブリ作品は「説明しない」展開が多くなった気がしますね。この辺りは好き嫌いが分かれるところかもしれません。

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